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【NHKスペシャル】“がん治療革命”が始まった~プレシジョン・メディシンの衝撃~

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【NHKスペシャル】
「“がん治療革命”が始まった~プレシジョン・メディシンの衝撃~」

(NHK総合・2016/11/20放送)
※公式サイト:http://www6.nhk.or.jp/special/

<感想>

 祖父母4人のうち3人をがんで亡くしているので、私にとって「がん」という病はどうしても死を意識してしまう重い病気だと感じてしまいます。しかし医学の進歩というのは本当に速く、外科や内視鏡などの手術、抗がん剤の開発、放射線治療、そして今回特集された「プレシジョン・メディシン」と目を見張るものに思えます。

 患者のがん細胞の遺伝子を解析して最適な薬を投与するという方法。これによって劇的な治療効果が上がっているということは、私の予想をはるかに越えるものでした。まだ臨床試験段階のものも多いですが、これが症例データの積み重ねというビッグデータが人工知能と結合すれば、がんが容易に平癒する病気になる時代がそう遠くないうちに来るのではないか。そう思いました。

 しかし気になるのは、まだ診療行為の全てが保険適用されていないということ。毎月90万円の薬代という話がありました。1年間にすれば1000万円以上、とても皆が受けられるものではありません。日本の国民皆保険制度は世界に誇ることのできるもので、経済的な理由で命の選別があってはならないものです。高額な治療費に苦しむ人をなくすための手立てを、国がもっと積極的に打つべきでしょう。それがトータルで考えれば、医療費総額を下げることに繋がるのですから。

<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>

※見出しは当方で付けました。

・進行した大腸がんの男性。5回の手術と抗がん剤による治療を受けたが、その度に再発を繰り返した。しかしある臨床試験に参加したところ、がんは2か月の間に4割縮小していた。
・余命2年と言われた肺がんの女性。同じくある臨床試験に参加したところ、1か月でがんが縮小した。
・今、がん治療の革命が始まっている。これまでの抗がん剤とは全く違う仕組みでがんを攻撃する新しいタイプの薬が次々に誕生。そして患者の遺伝子を解析し、最適な薬を選び出す新たな医療「プレシジョン・メディシン」(精密医療)の登場だ。この2つの相乗効果によって、がん治療の革命が動き出している。
・全国235の病院と15の製薬会社が参加する大プロジェクトが発足、この新しい治療法を推し進めようとしている。進行した肺がんと大腸がんなどの患者6658人のうち、700人以上に効果が期待できる薬を見つけ出している。
・このプレシジョン・メディシンを国家戦略と位置づけるアメリカ。今年80億円の予算を投じ、2000の病院で大規模な臨床試験を始めた。
・人工知能を取り入れた、かつてない試みも始まっている。
・今、世界で始まったがん治療の革命。命を延ばす医療の可能性に迫る。

<プレシジョン・メディシン 驚きの効果>
・週末の朝、川沿いの遊歩道を走る男性がいる。髙橋康一さん(48)は、進行した大腸がんと闘っている。

(どれぐらい走りました?)
日によりますけど、30分から1時間くらい走ったり歩いたりしています(髙橋さん)
(体は問題ないですか?)
問題ないです(同上)

・1回に走る距離は5km、階段も一気に駆け上がる。会社の同僚からは「とてもがんの患者とは思えない」と言われることもあるという。
・22歳でがんを患い、これまでに5回の手術と抗がん剤治療を受けた。その度に再発に苦しめられてきた。そして今年5月、新たにリンパ節に転移が見つかった。医師からは、今度は手術をすることはできないと告げられた。そのとき勧められたのが、新しい治療法を試す臨床試験への参加だった。

もしかしたらそれ(臨床試験)で助かるかもしれないと思ったので嬉しかったですね。やりますかと聞かれたときに、すぐやりますって(同上)

・国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)で新たな治療法を開始して2か月。髙橋さんは効果を見るための最初のCT検査を受けた。体調がよくなっているとはいえ、やはりがんの状態が気になる。

この待ち時間が一番精神的にはきついですね。スマホをいじったりして気を紛らわせて。考え出すと緊張しちゃうので、できるだけ考えないように(同上)

・結果が出た。

測定したんですけど(がんが)43%ぐらい縮小しているので(薬が)よく効いていると思います(主治医)

・4割以上小さくなっていた髙橋さんのがん。治療は大きな効果を上げていた。

もしそれ(臨床試験)がなければ従来の抗がん剤で副作用に苦しんでいたと思うし、長生きができなかったかもしれないので、そのおかげで今、僕は元気でいられるので非常に自分はラッキーだったと思うし感謝しています(同上)

・髙橋さんが使っているのは、免疫チェックポイント阻害剤。この臨床試験では免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬を試している。これまでの抗がん剤とは効き方が全く異なる薬だ。
・そしてその効果を最大限に引き出すのが、プレシジョン・メディシン。患者のがん細胞の遺伝子を解析し、最適な薬を選択する方法だ。2つを組み合わせることで今、がんの治療に革命が起きつつある。
・この臨床試験を進めているのはスクラム・ジャパンというプロジェクト。国立がん研究センター東病院を中心に、全国の医療機関と製薬会社が協力する大規模なプロジェクトだ。現在、全国235の病院と15の製薬会社が参加している。対象は主に進行した肺がんや大腸がんの患者。特に従来の抗がん剤の治療で十分な効果が得られなかった人たち。

プレシジョン・メディシンで患者さんに合った適切な治療薬を使うことは、今までの倍以上の長生きができる。医療の進歩に繋がっていくことは間違いない(国立がん研究センター東病院 後藤功一呼吸器内科長 SCRUM-Japan研究代表)

<プレシジョン・メディシン カギを握るのは遺伝子>
・今まさにこの臨床試験に参加しようとしている人がいる。進行した肺がんを患う瀨原進さん(69)。骨に転移が進み手術では対処できないと診断された。肺がんで通常行う抗がん剤治療も効果が上がらなかった。今年8月には新たに肝臓への転移が見つかった。

ショックですよね。良くなっていないということは(妻・直子さん)

・瀨原さんには去年、孫の大翔くんが生まれた。幼稚園に入るまで成長を見届けたい、それが願いだ。

腰の痛さも忘れちゃうよ、笑顔見たら。1日でも長く一緒にいような(瀨原さん)

・この日、瀨原さんは最初の検査を受けるため国立がん研究センター東病院を訪ねた。まず行うのは、がん細胞を取り出すこと。プレシジョン・メディシンは、がん細胞の遺伝子を解析することから始まる。
・瀨原さんなど患者のがん細胞が運び込まれる検査会社(エスアールエル 東京・八王子)。ここで最新の装置、次世代シーケンサーを使ってがん細胞の遺伝子を解析する。
・異常な増殖を続けるがん細胞。もとは正常だった細胞に異変が起きることで生まれる。その原因となるのが遺伝子の傷、遺伝子変異だ。人間の細胞には2万余りの遺伝子がある。その中で例えば肺がんの場合、EGFR ALKなどと呼ばれる遺伝子に変異が起きることが分かってきた。
・実はどの遺伝子変異ががんの原因となっているのかは、患者によって異なる。こうした遺伝子変異は、それぞれタイプの異なる異常なタンパク質をつくる。このタンパク質が、がん細胞を異常増殖させる犯人だ。
・そこでその働きを抑えるのが、分子標的薬という新しいタイプの治療薬。それぞれの異常タンパク質に結合し、その働きを抑えるように作られている。
・遺伝子解析を行い変異のタイプを見極めた上で、それに適した分子標的薬を使う。これがプレシジョン・メディシンだ。これまでの治療と効果はどれくらい違うのか。従来の抗がん剤治療の場合、進行した肺がんではがんが小さくなった患者は約3割だった。
・これに対しプレシジョン・メディシンでは、あらかじめ効果が見込まれる患者に絞り込んで投与する。代表的な肺がんの分子標的薬の場合、がんが小さくなった患者は約7割。高い確率で効くことが期待できる。
・遺伝子の解析結果を待つ瀨原さん。妻の直子さんが営む店で町内会の仲間にプレシジョン・メディシンへの期待を語っていた。

すごいスピードでいろんなことを研究している(瀨原さん)

・瀨原さんのような肺がんでは、現時点で16の遺伝子の変異に対し延命の効果が期待される分子標的薬が存在している。期待する遺伝子変異が一つでも見つかれば、新たな治療の可能性が開ける。

結果が出なかったら冗談じゃないってなるかもしれないけどさ。遺伝子がどうのこうのって俺に効いてくれれば、ものすごくいい(同上)

少しでもいい方に出てくれればいいよ。これなら大丈夫です。薬で治りますって言ってくれればね(直子さん)

・結果が出るまであと3週間。

<ステージ4の肺がんと診断された女性 がんが縮小する薬が見つかった>
・プレシジョン・メディシンによって新たな薬が見つかり、命を繋いでいる人がいる。大野さとみさん(48)は4年前、進行した肺がんと診断された。

ステージは、いきなり4と言われた。「手術はできないところにあります」と(大野さん)

・肺にできていたがんは68ミリ。医師からは余命は2年と告げられた。4種類の抗がん剤を投与し治療を続けたが、十分な効果は得られなかった。
・がんと診断されてから9か月後、医師の勧めで遺伝子解析を受けた大野さん、RETという遺伝子に変異が見つかった。しかしこの遺伝子変異のタイプに効く肺がんの薬はなかった。
・そのとき医師からある薬が示された。甲状腺のがんの分子標的薬だった。実は大野さんから見つかったRET遺伝子の変異は既に甲状腺がんで見つかっていて、薬も存在していた。同じRET遺伝子の変異なら同じ薬が効くのではないか。そう考えられ、臨床試験が始まった。1か月でがんは68ミリから48ミリに縮小。2か月後には更に小さくなった。

ほんまに小さくなって、このまま消えてしまうんちゃう、先生って。すごいとしか言いようがない。ありがたい(同上)

明らかに小さくなって、間違いなく効いていると思える。よかったねと。薬を届けて本当にこういうことが起こると分かった最初(の患者)なので、非常に嬉しかった(兵庫県立がんセンターの里内美弥子呼吸器内科部長)

・肺がんの大野さんは甲状腺のがんの薬が効き、当初2年と言われていた余命をはるかに超え、5年目を迎えている。
・これこそが今、起きているがん治療革命の成果なのだ。これまで臓器別に薬が考えられてきたがん治療。遺伝子変異別に最適な薬を選ぶことで、より長く生きることが期待できる。

臓器の縦割りではなくて、遺伝子変異に基づいた横割りの治療開発がプレシジョン・メディシンの基本。がんの原因となる遺伝子異常が見つかれば、肺がんでも大腸がんでも一番合った治療薬を使うと非常に有効性が高い。さらに個別化していくのがプレシジョン・メディシンの基本の考え(後藤氏)

<プレシジョン・メディシン そのメリットは?>
・スタジオでは原千晶さんと間野博行さんが対談した。
・タレントの原千晶さん(42)は、30代で子宮頸がん・子宮体がんを経験。患者会を主催し自らの体験を伝えている。
・間野博行氏は、国立がん研究センター研究所長、東京大学大学院教授。肺がんの原因遺伝子の1つを発見した。

原:私、自分自身ががんを2度経験していて、子宮のがんだったんですけど、本当に今までのがん治療とはだいぶ違うなっていうふうに思ったんですけども。

間野:今までの治療はそれぞれの臓器別に、肺がんとか大腸がんとか臓器単位で薬が選ばれていたけど、これからはそうではなくて、がんを起こしている遺伝子によってがんを分類するという時代に入ったと思います。その遺伝子以上に対応した薬を使うことができるので、治療の有効性が予測しやすいのがプレシジョン・メディシンの最大のメリットだと思います。

原:それ一番、患者側からすると知りたい部分で。例えば私だったら子宮体がんだったので、体がんの患者さんにはこの抗がん剤ですよっていうのがいくつか決まっていて「じゃあ、これにしましょう」って決まっても、それが確かに効果があるかどうかということはやってみなければ分からないと言われながら、副作用に苦しみながら治療しました。

プレシジョン・メディシン、もし私がそのとき適用でやってたとしたら、この薬は効きますよ、効果が期待できますとか…。

間野:がん治療の考え方が根本から変わった。プレシジョン・メディシンは必ずしも、がんだけを意味するわけではないんですけど、がんの分野が圧倒的に進んでいるんですね。

原:プレシジョン・メディシンを、もし私が適用で使ったとしたら手術をしなくてもよかったということはあるんでしょうか?

間野:今の段階では、やはり手術に勝るがんの治療はないと思いますね。

原:じゃあ第一選択としては、やはり手術がまず最初にある。手術ではなく放射線を適用する場合もあったり。その先にプレシジョン・メディシンがあると。

間野:そうですね。これまで使われてきた抗がん剤というのは今後も重要ですけれども。でも今までの抗がん剤は実際に投与してみて、例えば2割の人が効いたとか3割の人が効いたというふうに、使ってみないとその薬の効果は分からなかったといのが本当のところですし、また今までの抗がん剤は増殖する細胞を殺しますから副作用が大きかった。髪が抜けたり、吐き気が出たりするんですね。ところがこれからは、がんの原因となっているタンパク質を見つけて選択的に抑えるような薬を、がんの分子標的療法というんですけど、それを使うようになってきましたから比較的副作用が少なくて、がん細胞だけを殺すことができる時代になったと思います。

今のがんの分子標的薬は余命を延ばすことができるのは確実に言えます。ただ副作用はみんな同じようではなく、そんなに頻度は高くないですけども重篤な副作用が出ることもあります。

※分子標的薬はまれに重篤な副作用が出ることもある。

原:遺伝子解析をすると誰にでも薬って見つかるんですか?

間野:残念ながらそうではないんですね。(同上)

・遺伝子解析をすることで分かる、がんの原因となる遺伝子変異。最も研究が進んでいる肺がんの場合、全体の半数余りにあたるEGFRとALKという遺伝子に変異がある患者には既に保険適用の薬がある。KRAS、MET、ROS1、RETなどに該当する患者には効果が見込まれる薬はあるが、まだ臨床試験段階。残り2割の患者の多くは、そもそも原因となる遺伝子変異が特定できていないため薬がない。

・実はがんの原因となる遺伝子の変異を特定することは容易ではない。がんに関わる複数の遺伝子変異が同時に起きていて、どれが直接の原因なのか特定するのが難しい場合があるからだ。

間野:特に肺がんの中の腺がんは最もよくがん遺伝子が研究されて発見されてきているがん腫なんですね。必ずしも他の固形腫瘍でこれほど多くのがん遺伝子は分かっていませんので、その他のがんの場合には臨床試験が行われているのは少ないパーセンテージである可能性もあります。

原:プレシジョン・メディシンを受けたい場合は実際にどのような手順を踏んでいけばいいのでしょうか?

間野:スクラム・ジャパンに参加している施設の外来を受診されて、それで自分の遺伝子変異について解析してほしいというふうなことを仰るのが一番。それから今では大学病院でもいくつかの施設で始めていますので。ただそれは今のところ保険適用ではないですから、たぶん自費診療という形で診断を受けることになると思います。

※SCRUM-Japanウェブサイト→http://epoc.ncc.go.jp/scrum/

<プレシジョン・メディシン 始めた病院>
・臨床試験の枠を超え、一般の患者に向けてプレシジョン・メディシンを始めた病院の一つ、北海道大学病院。プレシジョン・メディシンを取り入れて半年、62人の患者の遺伝子解析を行ってきた。
・保険がきかない自由診療のため、検査費用は約40万円から100万円。これまで29人に効果が期待できる薬を紹介してきた。
・医師に紹介された分子標的薬で治療を始めた子宮体がんを患っている水野悦子さん(58)。使っているのは乳がんや腎臓がんの薬だ。子宮体がんの治療に使う場合には保険が適用されないため、毎月の薬代は90万円に上っている。

いつも病院に来るたびに高いお金を払っているから、主人に申し訳ない。金銭的に余裕がなくなったら、望みがあるのに諦めざるをえない(水野さん)

奏功例(効果が大きい例)には資金的な補助制度ができることが望ましい(北海道大学病院がん遺伝子診断部の林秀幸医師)

<プレシジョン・メディシン 保険適用への道は?>
原:せっかく薬が見つかりました、見つかったとなっても保険が適用されていないということで毎月かなり高額な治療費を払わなければいけないという。しかも薬もやめることもできないというような。でもやっぱり患者さんは治りたいというその一心で皆さん受けられたりされて…。

間野:新しい薬ですから、やはり日本人で有効性が確認できないと薬の承認は難しいと思います。ただし保険の適用外の薬を違うがん腫に応用することも、昔に比べると厚生労働省もPMDA(医薬品医療機器総合機構)も積極的になっていますので、これまでよりはすごく少ない患者さんの数の臨床試験でそれを認めてくれるようになってきていると思いますね。

原:今後はそういった部分ではいろいろ期待ができてくると。

間野:今後は例えば臨床試験の在り方も変わっていくと思うんですね。臓器別から遺伝子変異別へ実際に起きていくと思われます。

原:これまでは諦められていたことが、その本当に小さな光をふっと拾い上げてくれるような、そんな感覚ですね。

<プレシジョン・メディシン 推進するアメリカ>
・日本では始まったばかりのプレシジョン・メディシン。強力に推し進めている国がアメリカだ。去年1月、オバマ大統領はプレシジョン・メディシンを今後の医療の柱にすることを宣言した。

私たちが本日立ち上げるプレシジョン・メディシン政策は、今後の医学的な発見の礎となるでしょう。がんを引き起こす遺伝子を特定し、がんに打ち勝つためにその知識を使おうではありませんか(オバマ大統領)

・既にプレシジョン・メディシンは全米に広がっている。がん専門に遺伝子解析を請け負うファンデーション・メディシン社(マサチューセッツ州)。各地の病院から年間4万人分のがん細胞が送られてくる。
・遺伝子変異のタイプ、承認薬、他の臓器で承認されている薬、臨床試験の有無など詳細な情報を担当医に伝えるサービスを行っている。

今や我が社の遺伝子解析サービスは、大都市から地方の町まで全米各地に広がっています。地域の小さな病院が最大の顧客になっています(ファンデーション・メディシン社のデイブ・ダリー最高商務責任者)

・拠点となるがん専門病院では、遺伝子データの蓄積に力を入れている。メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(ニューヨーク)では既に1万3000人を超える患者のデータを蓄積。がんの原因となる遺伝子変異を新たに見つけたり、薬の開発に繋げたりしている。

常に新しい発見があります。1000人の患者のデータでは分からなかったことが、1万3000人のデータを見ると分かってくるのです(メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターのマーク・ラダニー博士)

・膨大なデータの蓄積とプレシジョン・メディシンの進展によって、これまで治療が難しかった患者に希望が見え始めている。ジャズシンガーのメアリーアン・アンセルモさん(60)は脳腫瘍の一種であるグリオブラストーマと呼ばれる極めて悪性のがんで、患者数が少なく効果的な治療法はなかった。
・遺伝子を解析したところ、BRAFという遺伝子に変異が見つかった。そこで同じBRAFの変異が原因となる皮膚がんの一種メラノーマの分子標的薬を試すことになった。この薬が効いて、2年経った今もがんは縮小したままでいる。

私が言いたいのは、希望はあるということです。だって今は、がんの遺伝子まで解析できる時代なのですから(アンセルモさん)

・さらに次世代のプレシジョン・メディシンが動き出している。ノースカロライナ大学の病院では、プレシジョン・メディシンと人工知能を融合させた。IBMが開発したワトソン、この2年で驚くべき成果を出した。

私たちが原因となる遺伝子変異を見つけられなかった患者の3割にワトソンは変異を見つけ出しました。本当に驚きました(ノースカロライナ大学のウィリアム・キム博士)

・ワトソンが成果を上げたのは、通常の遺伝子解析でがんの原因となる遺伝子変異が特定できなかった患者の治療。肺がんの遺伝子変異のグラフでいえば不明にあたる患者。複数の遺伝子変異が起きていて、どれががんの原因になっているのか特定が難しいケースだ。
・一方で、年間10数万件発表されるがんの論文の中には遺伝子変異の特徴や、どの薬がどの遺伝子変異に効果があるなど新たな情報が記されている。
・そこでワトソンに2300万件以上の論文を学習させた。その上で遺伝子変異が特定できなかった患者のデータを読み込ませた。すると論文と照らし合わせて、いくつもの遺伝子変異の中から最も可能性が高いものを特定、さらに最適な薬を選び出した。

これは膀胱がんの患者のデータです。ワトソンはPTCH1という膀胱がんでは稀な遺伝子変異が原因であることを見つけ出しました。その変異に対する薬も探し出したのです。ビッグデータは非常に複雑で、人間が答えを導くのには限界があります。人が1日に読める論文は1つか2つです。ワトソンは人間では対処できない問題に答えを出してくれるのです(同上)

・プレシジョン・メディシンを進めるアメリカ。その背景には膨らみ続ける医療費の抑制という政府の狙いがある。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など今登場している新しい薬は価格が高いものが多い。例えば免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブの場合、アメリカでは1人あたり年間約1600万円もかかる。これに対しプレシジョン・メディシンを使えば、あらかじめ効果のある患者を選んで投与できる。

遺伝子変異と薬の関係が分かってくれば、効果が期待できない薬は使わずに済みます。そうすれば不必要な医療費の削減に繋がると考えています(アメリカ国立がん研究所がん治療・診断部門部長のジェームズ・ドロショー博士)

<プレシジョン・メディシン 人工知能の可能性>
原:ワトソン、すごいですね。やっぱり人工知能を使うと救われていく患者さんというのは増えていきますよね。

間野:がんの遺伝子を調べると、遺伝子変異って実はすごく多いんですね。それがどれが本当のがんの原因で、どの変異が治療選択に有効なのかというのを決めないといけないんですね。そのために例えば膨大な文献情報を調べるというのは、やはりコンピューターが得意とするところなので人工知能が薬を知らせてくれる

原:やっぱり人間の知能というか、データの蓄積量だったりとかというのは、どうしても限界があるなというのは感じますものね。

間野:もちろん最終的な判断は医師になりますけど、人工知能が医師の判断を助ける時代に入りつつあると言えます。もちろんそれがさらに進化して比較的安い値段で使えるようになると、いろんな病院でのがんの治療にもたぶんそれが使われるようになるでしょうし、将来性はすごくある分野だと思いますね。

<遺伝子解析 患者の結果>
・遺伝子解析を受けた瀨原さん、結果を聞く日が来た

今の医学っていうのは何とかなるもんだよ。これだけ進んでいるんだから(瀨原さん)

・解析結果が伝えられた。

結論は全部「陰性」です。期待した何らかの遺伝子異常があったらそれに対する新しい薬と思ったんだけど、それはなかったです(主治医)

・薬が存在する遺伝子変異は見つからなかった。

一応、全部調べてくれたんだけど該当しないって。もうはっきりしたからね(瀨原さん)

少しでも明るい返事が聞きたかったけど、やっぱりと思った。だめだったんだなって。しょうがないですよね、これは(妻・直子さん)

・プレシジョン・メディシンによって最適な薬に出会う人がいる一方で、現状では薬がないことが明らかになってしまう人もいる。

<薬が見つからない患者 どう支えるか>
・遺伝子解析を受けたにも関わらず、薬が見つからない患者にどう寄り添うか。北海道大学病院では新たな試みを始めている。薬がないと医師から告げられた患者に話しかけたのは佐藤千佳子さん。メディカルコンシェルジュと呼ばれるスタッフだ。期待通りの結果が得られなかった患者や家族の心のケアを担当している。

これで診断部とお別れじゃなくて、このままずっと続いていると思っていただいて、時折、近況報告もいただくとか。奥さんとけんかして誰にも言えないということでも結構ですし(佐藤さん)

・定期的に患者と連絡を取り、不安になりがちな患者と家族の心を支えている。患者を励まし続けるのには大きな理由がある。近い将来、新薬が登場する可能性があるからだ。実際、治療薬がなかった患者に対し3か月後、新しい分子標的薬が承認されたと伝えた例がある。

長期戦なんですね。そのとき薬がなくても後から薬が出たときに連絡を取らなくてはいけない。そのときにどんな方だったか覚えていないと、お話がスムーズにいかないということもあるので(同上)

・プレシジョン・メディシンを進めるプロジェクト、スクラム・ジャパン。集めた遺伝子変異の情報を新たな薬の開発に繋げようとしている。遺伝子変異のタイプが分かれば、がん細胞の異常な増殖を促すタンパク質のタイプも特定できる。そのタンパク質をターゲットに、新たな分子標的薬を開発していこうというのだ。
・遺伝子解析で薬が見つからなかったとしても、それは治療の終わりを意味するのではなく、新たな薬の誕生に繋がる可能性がある。

<明日に向かって歩き出す>
原:今、適用する薬がないというふうに告げられても、とにかく諦めないということなんですね。

間野:次々といろんな薬の臨床試験がスタートしていますから、そうすると自分のがんの遺伝子変異のデータを持っていると、そこに合えばその臨床試験にすぐに参加することができる。だから治療法がなくてもそれが終わりではないというふうに考えられますね。

原:実際どのぐらいのペースで新薬が開発されてたりするのですか?

間野:今は1~2年ぐらいで臨床試験に入っていくことも稀ではなくなってきているので、非常に多くの薬が臨床試験に入っている時代です。

原:私たちが思っている以上に日々、新薬が開発されているということなんですね。

間野:絶対これからのがん治療はプレシジョン・メディカルの方向に進むことは間違いない。単にがんの治療薬の選択だけでなく、医療体制そのものが大きく変わる。診断法にしてもそうですし、臨床試験の在り方もそうですし。心のケアなんかも大事でしょうし。これからさらにその流れは大きく変わっていくというふうに思われます。ですから、がんの患者さんには期待を持てる時代になったといえると思います(同上)

原:自分が実際がんを経験したときに、もう訳が分からなくて…自分を責めてみたり、そういったことがしばらくあったんですけど、今はここまではっきりとその原因ということを究明し、これ(遺伝子変異)が自分が闘うべき敵で、向き合っていけば希望が見えてくるという時代になってきたんだということですよね。

間野:ものすごいスピードで変わっていってますから、5年後にはすごく変わっていると思う

・遺伝子解析で効果が期待される薬が見つからなかった瀨原さん。従来型の抗がん剤の臨床試験に参加することにした。医師からは「効果が出ず、副作用だけが起きる可能性もある」と言われている。それでも効果が高い新薬が出るのを待とうと自ら参加を決めた。

(副作用が)怖いなんて言ってたら前に進んでいかないし。やるだけのことをやってみてそれで結果だよ、どうなるかね。いいように考えよう。それしかない(瀨原さん)

・プレシジョン・メディシンによって薬が見つかった大野さん。この日、CT検査を受けに来ていた。リンパ節への転移が見られた。薬の効果の持続には限界がある。しかし大野さんのRET遺伝子の変異には複数の分子標的薬があり、次の臨床試験に参加できることになった。彼女の持つRET遺伝子の変異に効くもう一つの分子標的薬を服用した。

こういう新しい薬が出てくると希望が出てくるので、RETという遺伝子を見つけてくれた先生に、ほんまにもう感謝ですよね。こいつ(薬)が頑張ってやっつけてくれると思います(大野さん)

・今、急速に進むがんの新薬開発。そしてプレシジョン・メディシン。がんになっても長く充実した人生を過ごせる時代を目指して、大きく動き出している。

(2016/11/21視聴・2016/11/21記)

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司馬遼太郎思索紀行 この国のかたち 第2集 “武士”700年の遺産
司馬遼太郎思索紀行 この国のかたち 第1集 “島国”ニッポンの叡智
CYBER SHOCK~狙われる日本の機密情報~
史上最悪の感染拡大~エボラ 闘いの記録~
ママたちが非常事態!?~最新科学で迫るニッポンの子育て~
新・映像の世紀・第4集 世界は秘密と嘘に覆われた
シリーズ東日本大震災 原発事故5年 ゼロからの“町再建”~福島 楢葉町の苦闘~
震度7 何が生死を分けたのか~埋もれたデータ 21年目の真実~
シリーズ 激動の世界・第3回 揺れる“超大国”~アメリカはどこへ~
シリーズ 激動の世界・第2回 大国復活の野望~ロシア・プーチンの賭け~
シリーズ 激動の世界・第1回 テロと難民~EU共同体の分断~
新・映像の世紀・第3集 時代は独裁者を求めた
自衛隊はどう変わるのか~安保法施行まで3か月~

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