【NHKスペシャル】
「揺らぐアメリカはどこへ~混迷の大統領選挙~」
(NHK総合・2016/11/5放送)
※公式サイト:http://www6.nhk.or.jp/special/
<感想>
いよいよ直前となったアメリカ大統領選挙。私には当然のことながら選挙権がありませんが、関係ないと言い切ることはもちろん出来ない選挙戦。日米関係にも大きく影響を与えるからです。ただただ見守るしかありません。
それにしてもアメリカは事実上、民主・共和両党のどちらかの代表しか大統領になれないという仕組み。今回の選挙は、その選択肢の少なさを感じる有権者が非常に多いのではないかと思います。「第三極」と自称する右派政党や老舗を誇る(?)左派政党が混在する日本とは異なる政党状況があります。
それでも中間層や若者の閉塞感、行き場のない思いをクリントン氏、トランプ氏どちらの候補も正面から受け止めきれないように見て取れました。いわゆる「消去法」というやつでしょうね。そうなると思い切り右にブレるか、左にブレるかのどちらかだと思います。既存政治の打破や排外主義を唱える手法を取るトランプ氏に、民主支持から乗り換えている層が一定数いるのも頷けます。もし民主党の大統領候補がサンダース氏だったら…もっと違った情勢になっていたことでしょう。ただし彼の場合は予備選段階で、富裕層の資金力で全力で叩き出した感があるように見えましたが(苦笑)
ということで、日本時間でいうと9日(水)の昼過ぎに大勢が判明するのでは?と言われています(もつれればもう少し後になる可能性も)。えっ?どちらが勝つのか私の予想は?…多くのアメリカ人が土壇場で「何だかんだ言っても“アメリカの顔”がアレだとちょっとマズイよね」という“究極の消去法”で女性初の大統領誕生かな、そんな風に感じています。当たるかどうかは分かりませんがね。
ちなみにトランプ氏の発言で唯一共感できるのが「駐留経費を出さないと在日米軍を撤退させる」と言っていること。「思いやり予算」じゃ足りないようなので、大いに結構。諸悪の根源である在日米軍には、ぜひとも出ていってもらいたいですね。
それから先、自分たちの国を守るために自衛隊の国防軍化(強化)がいいのか、それともあくまで憲法9条堅守かは日本サイドの問題。国会はもちろん国民レベルでも徹底議論して決めればいい。「まずは沖縄から日本から米軍さん、さようなら」は、右翼・左翼両者ともに相乗りできる課題ではないでしょうか。
<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>
※見出しは当方で付けました。
・接戦となっているアメリカ大統領選挙。全米が注目する討論会を見に若者たちが集まっていた。大統領を目指すクリントン氏とトランプ氏。
この男は女性をブタ・まぬけ・犬と呼んだのです(演説するヒラリー・クリントン氏)
なんて嫌な女だ(演説するドナルド・トランプ氏)
・2人の言い争いを若者たちは笑い飛ばしていた。
バカ騒ぎだったね、いい余興だよ(男性)
どちらかが本当に大統領になると思うと笑えないよね(女性)
・建国から240年、大統領選挙はアメリカが目指す理想を語る舞台だった。
黒人も白人もヒスパニックもない。あるのは1つのアメリカだ(演説するオバマ大統領)
・しかしトランプ氏は過激な発言を繰り返すことで支持を集めてきた。
国境に壁をつくる!貿易協定は全て見直しだ!(演説するトランプ氏)
・そして噴き出したのが、人々の心に溜まっていた怒りと不満。自由と多様な社会を掲げてきた、アメリカの理念そのものが揺らいでいる。
特権階級への反発が国を分断しています。既存の政治はもはや信じられていないのです(元労働長官ロバート・ライシュ氏)
・予断を許さない情勢が続く大統領選挙。混迷する超大国はどこへ向かうのか。アメリカ社会で渦巻く異変の深層に迫る。
<“トランプ現象”の深層 チェンジ求める叫び>
・ホワイトハウスの次の主は誰か。決戦の日が近づいている。豊富な実績を誇る民主党のヒラリー・クリントン氏と、政治経験のない実業家、共和党のドナルド・トランプ氏の戦い。
・本命視されるクリントン氏に対し、トランプ氏は社会のタブーに触れる差別的で排他的な発言を繰り返しながら、建前だらけの既存の政治はもうたくさんだと、あくまで強気だ。
・そうした主張に、グローバル化の中に置き去りにされ怒りに駆られる労働者や、エリート支配に反発する人々が共鳴している。
・それは見過ごすことのできない一つの大きなうねりとなり、アメリカが拠り所としてきた資本主義や多様な移民社会といった価値観をも揺さぶっている。
・このいわばトランプ現象を引き起こしたマグマの正体は何か。本命クリントン氏が支持を伸ばしきれないのはなぜか。最初の手掛かりとして、8年前にオバマ大統領も掲げた「チェンジ」という言葉から探っていく。
・かつてアメリカ中を熱狂させたオバマ大統領の「チェンジ」という言葉。今回の取材で全く違う「チェンジ」を耳にすることになった。アメリカ中西部、全米で最も激戦となっている州の一つ、オハイオ。トランプ氏の集会に集まった支持者は口々に「チェンジ」を訴えていた。
古い政治は“チェンジ”しなくては(女性)
ヒラリーとオバマができなかった“チェンジ”を期待している(男性)
・チェンジを求める支持者にトランプ氏も応える。
サンキュー、オハイオ大好きだよ!ここに集まった大勢のアメリカ国民よ“チェンジ”の準備はいいか!(演説するトランプ氏)
・オバマ大統領が変革を呼びかけたときとは違う独特の高揚感。
私たちには“チェンジ”が必要だ。ヒラリーではこのままの政治が続いていく(同上)
・「チェンジ」という言葉は追い詰められたアメリカの叫びのように聞こえた(大越健介キャスター)。
・人々が求める「チェンジ」とは何か。伝統的に民主党の地盤だったにも関わらず、選挙戦を通じて共和党員が激増した町がある。オハイオ州ヤングスタウン、かつては全米有数の鉄の産地として栄えた白人労働者の町だった。
・リック・パップさん(62)は今回初めて、共和党の候補トランプ氏に投票しようとしている。彼は40年以上、製鉄所で働いてきた。8年前はオバマ大統領に投票したが、今回はトランプ氏の「チェンジ」という言葉に心を揺さぶられた。
大統領になったら衰退している町の経済を変え、仕事を取り戻します(演説するトランプ氏)
トランプは私たちに手を差し伸べてくれていると感じた。これからチェンジを起こすから任せてくれと(パップさん)
・かつてこの地域はアメリカの鉄鋼業を支えてきた。町に壊滅的な打撃を与えたのが経済のグローバル化。中国などからの安い輸入品に太刀打ちできなかった。
増産しろと言われたかと思えば半年休業になった。輸入価格に振り回された(同上)
・4年前に工場が閉鎖され職を失ったパップさん、妻とは離婚し3人娘は皆仕事がないからとヤングスタウンを離れた。アメリカを豊かにするはずだったグローバル化によって、人生の全てを奪われたと感じている。
仕事というのは単にお金を稼ぐためだけじゃないんだ。大事なのは愛する家族を養い友情を育み、困っている仲間を助けることなんだ。みんなで生きていけるよう、最後まで神に祈っていたんだ(同上)
・全米の製造業の雇用は、この15年で3分の1が失われた。その一方で広がっているのが格差だ。上位1%の平均所得は今や90%の人たちの所得の30倍にもなっている。
※平均年収(2015年)
上位1%:約1億1000万円
90%: 約345万円
中間層はもういなくなってしまった。アメリカには富裕層と貧困層しかいない。もうたくさんだ。チェンジが必要なんだ。どうせ失うものは何もないんだから(同上)
<“トランプ現象”の深層 崩れゆく白人中間層>
・グローバル化に取り残され、白人中間層が失われた町では治安が急速に悪化。社会に不安が広がっている。
仕事がないため、通りには絶望が漂っているのです。警察署から2、3ブロックしか離れていないのに、この地域では麻薬がはびこっています(警察官)
・白人中間層が多く暮らした住宅街。最近深刻なのが、薬物中毒者の急増だ。
不審者が見つかったので、こちらへ向かってください(警察の無線)
了解、南地区か?(警察官)
・レストランの駐車場にいたのは、30代の白人男性2人。車内からヘロインが大量に見つかった。
これで25ドルくらいだ。結構な量のヘロインだよ。子どもはいるのか?(同上)
これから迎えに行くところだったんだ(捕まった男)
なんだって?薬でハイになって子どもを迎えに行くつもりだったのか?(警察官)
子どものフットボールの試合があるんだ(捕まった男)
・アメリカでは今、10分に1人が薬物中毒で死んでいる。特に白人の死者は、この15年で3倍に急増している。
遺体はこのテーブルに乗せて霊安室に入れます。1日6人収容できますが、時には足りないこともあります(オハイオ州検死局の検死官)
・中年世代の10万人あたりの死亡率の各国のグラフを見ると、先進国の中でアメリカの白人だけが唯一上昇している。製造業などの雇用が減少し、生活への不安が高まったことが背景にあるという。
この仕事に就いてからこんなにひどいのは経験したことがありません。ここは教育もなく、仕事もなく、未来や希望もない人々の末路です(同上)
・崩壊していく白人中間層、トランプ氏を支持するパップさんも身をもって感じている。近所に住む妹・シンディさん。夫は失業して間もなくアルコール依存症の末、亡くなった。彼女も幻聴に悩まされ、パップさんが毎日通って様子を確認している。
麻薬、アルコール中毒、なぜ起こる?どうしてこうなった。どうすれば“チェンジ”できるんだ。古き良き時代は去ってしまった。でもトランプなら、あの時代に戻してくれるはずだ(パップさん)
<“トランプ現象”の深層 うねり生んだ独自戦略>
・没落する白人労働者の支持を集めたトランプ陣営、これまでにない独自の戦略を立てていた。投票を呼びかける電話。一見、手当たり次第に掛けているようだが、実は綿密に計算されているという。
・トランプ氏の選挙戦略を立案したマット・ブレイナード氏が取材に応じた。活用したのは、調査会社を通じて手に入れた膨大な住民のデータ。過去にどう投票したか、何に関心を持っているかが分かる。
(画面上の)赤い点は今年の予備選挙で初めて投票した人を表しています。ディキシー通りに住むこの人は1967年生まれ。結婚しているか、家の価格、読んでいる雑誌まで分かります(ブレイナード氏)
・ブレイナード氏はこのデータで、これまで焦点が当たらなかった白人の労働者層を掘り起こした。アメリカの選挙運動では通常、過去に投票した頻度が高い人たちをリストアップし、自分たちの候補に入れてほしいと説得している。政治意識の高い層が中心だ。
・ところがトランプ陣営は、あまり投票に行っていない層に支持者が潜んでいると見ていた。これまで政治家が重視してこなかった選挙に関心が低い労働者層に働きかけ、大量の票に結びつけた。
我々は“投票しない層”の中に潜むトランプに共感する人を見つけ出し、投票に行くよう教育したのです。経済的に沈んでいればいるほど、我々の主張に共感してくれたんです。興味深いでしょう(同上)
・グローバル化に取り残された人々のチェンジの叫び。それを巧みに取り込んだトランプ陣営。こうして生み出されたのが、トランプ現象の大きなうねりだった。
<成長の実感なき人々 資本主義への不信>
・金融の中心、ニューヨークのウォール街。朝早くからビジネスマンたちが足早に行き交う姿がある。株価など各種の指標を見る限り、アメリカ経済は好調を維持している。しかし多くの労働者たちにとって、その実感は全くと言っていいほどない。
・蓄えられた富は一部のエリートたちだけが独占し、社会の裾野に下りてくることはない。富裕層と政治の癒着はむしろ強まるばかりだ。そう感じる彼らにとって、アメリカの土台をなす資本主義とは「特権階級の資本主義」にほかならない。
<“特権階級の資本主義” クリントン氏の苦戦>
・大統領選挙の本命と目されてきた民主党ヒラリー・クリントン氏。しかし特権階級の資本主義の象徴と捉えられ、苦戦を強いられてきた。上院議員や国務長官を歴任した豊富な政治経験。選挙戦で応援に駆けつけたのは、世界的な投資家ウォーレン・バフェット氏だった。
大統領になったらここに戻ってきて、バフェット氏と街に出てダンスをします(演説するクリントン氏)
・ウォール街から多額の献金を受けるヒラリー氏は、既得権益側だと捉えられてきた。
・さらに私用のEメールアドレスを公務に使用していた問題が発覚。FBI(連邦捜査局)の捜査を受け、信用できないというイメージも広がっている。
<“特権階級の資本主義” もう一つのうねり>
・資本主義は特権階級による支配のシステムと化している。そうした不信が起こしたもう一つの大きなうねりを今年の春、大越キャスターは目の当たりにしていた。
・民主党の予備選挙に立候補したバーニー・サンダース上院議員。このとき既に選挙戦からの撤退が決まっていたが、2万人の若者が詰めかけた。
お金を持っていなくても、よい教育を受けられるべきだ(演説するサンダース氏)
・特権階級の資本主義によって若者が格差から抜け出せなくなっていると訴え、若い世代の熱烈な支持を集めた。
<“特権階級の資本主義” 絶望する若者たち>
・サンダース氏を支持した若者たちは今、クリントン氏をどう見ているのか。サンダース氏の人気が高かったイリノイ州シカゴにあるイリノイ大学で9月、若者たちが集まり学費高騰に抗議する集会が開かれた。
富裕層はもっと公平に負担すべきです。教育は全ての人の権利なんだから(女性)
・アメリカの公立大学の授業料は、この15年で2倍に高騰している。クリントン氏は学費の軽減策を打ち出したが、どこまで本気か信用できないという。
クリントンはサンダースと違い、若者の思いを代弁していません(男性)
クリントンには将来を大胆に変える気はないと思います(女性)
・この集会に参加したトロイ・アリームさん(25)は、特権階級の側にいるクリントン氏が大統領になっても自分たちの境遇は変わらないと考えている。
“資本主義のシステム”によって自分たちは成功できないよう運命づけられているんだ。ヒラリーもこれまでの大統領候補と同じ、特権階級の既得権益を守る側なんだ(アリームさん)
・若者たちが特権階級の資本主義に直面したのが、2008年のリーマンショックだった。ウォール街のマネーゲームが若者を追い込んだ。大卒の若者への求人は高収入のものが減少し、低賃金の職種ばかりが増えた。
・その結果、のしかかっているのが借金。学生ローンの負債は総額130兆円、1人あたり360万円以上に急増。一流大学を出ても生きていくのがやっとという若者が少なくない。
・アリームさんは全米有数の大学に進学したが、親が職を失い年間300万円の学費が払えなくなった。卒業しても多額の借金を返済できる仕事には到底就けないと思い、大学を中退した。
・今は音楽イベントのスタッフなど仕事を掛け持ちしているが、月の収入は15万円ほどだ。生活費を切り詰めるため、親戚の家を転々として暮らしている。
借金をすれば卒業はできるけれど、残りの人生は借金まみれだ。勉強したことと関係ない仕事で無理することになる。そんなんじゃ社会の階段を這い上がって行けない。“特権階級”のシステムはこうして巧妙に俺たちを押さえつけるんだ(同上)
・一握りの人だけが成功し、自分たちにはチャンスすら回ってこない。今、若者の半数は「アメリカンドリームを信じない」と答えている。
アメリカンドリームなんて愛国者に仕立て上げるための、でっち上げのプロパガンダなんだよ。何年もの間、何も変わらない。むしろ悪くなっているんだ(同上)
・大統領候補の討論会が開かれた夜、街頭に若者たちが集まっていた。ラッパーが声をあげていた。
政治家は同じページにいるというが、俺たちは同じ章にすらいない。メインストリームの奴らを信じるな。若い世代にいい環境を、ジャングルに住む俺たちのメッセージだ。
・アリームさんは討論会の夜、若者を集めてパーティーを企画していた。司会を務めるのは若手の芸人。
みんな調子はどう?討論を見にきたのよね。私は見ないけどね(笑い)
・どうせ大統領候補に期待できないなら、笑い飛ばしてしまおうという狙いだった。手に持ったビンゴカードに書かれているのは、クリントン氏とトランプ氏がよく使う言葉。討論の中で出てきたら印を付けていく。
ビンゴ!(参加者の女性)
・この日の討論では、雇用問題から銃犯罪、安全保障まで次々と議題に上った。
輸出を増やし雇用を生み出すには何をすべきか分かっています(演説するクリントン氏)
30年も政治をやっていて、なぜ今になって解決策を考えているんだ(演説するトランプ氏)
・しかし若者の教育や未来については、一言触れられただけだった。
多くの国民からつらい状況にあると聞きます。もっと休暇を取れるようにしましょう。保育園を充実させ、借金をしなくても大学に行けるようにしましょう(演説するクリントン氏)
結局のところ2人は、俺たちの現状について真剣じゃないと分かった。だから若者の心は離れていくんだ。いい余興だったよ(アリームさん)
・若者と政治との溝は、かつてないほど広がっていた。
<若者と“トランプ現象” 底流にあるものは>
・既存の政治への怒りと絶望の背景に何があるのか。かつてビル・クリントン大統領の下で労働長官を務めたロバート・ライシュ氏。若者たちが抱えている不満は、トランプ氏の支持者とも通じるものがあるという。
表面上はトランプ支持者とサンダース支持者は全く違いますが、共通する危機感があります。それは“ビッグマネー”による民主主義の崩壊です。トランプ支持者がよく口にする“特権階級の資本主義”という言葉は、資本主義がエリートのためだけに機能しているという意味でサンダース支持者の主張と同じなのです(ライシュ氏)
これまで政治の対立軸は「保守 対 リベラル」でした。今は新たな軸が現れているのでしょうか(大越氏)
かつては政治の対立軸は「保守 対 リベラル」であり「小さな政府 対 大きな政府」でした。これから軸となるのは「反特権階級」でしょう。既存の政治は、もはや信じられていないのです。富裕層が政治の力まで独占し、民主主義が病んでいます。変革が必要です(ライシュ氏)
<“反特権階級”の怒り 揺らぐアメリカの理念>
・富や権力を手にした一部のエリートたちが、あるべき政治や経済の姿を大きく歪めてしまったという不信感。置き去りにされたと感じる人々の怒りのマグマは、様々な形をとってアメリカ社会にひずみを生んでいる。
・その顕著な例がある。移民国家アメリカにとっては皮肉な自己矛盾ともいえる反移民感情の高まりだ。取材を進めると、新しい移民に手を差し伸べる余裕があるのなら自分たちの暮らしの方こそ何とかしてほしいという、切羽詰った声を数多く聞く。彼らが溜め込んだフラストレーションが、一つのパンドラの箱をこじあけつつあるようだ。
<トランプ氏が開けた“パンドラの箱”>
・アメリカで今、噴き出しているのが白人たちの反移民感情。その引き金となったのは、トランプ氏による不法移民を締め出せという主張だった。
私は壁を築いて流入を止める。その金を払うのは誰だ?(演説するトランプ氏)
メキシコだ!(聴衆たち)
・煽られていく敵意。移民を積極的に受け入れているアイオワ州の高校で、ある事件が起きた。隣町の高校との間で行われたバスケットボールの試合。相手校の白人生徒から突然「ドナルド・トランプ」という声が沸き起こった。その場にいた移民2世の生徒はこう証言する。
みんなで「聞こえた?トランプって言ってるよ」って。僕たちに移民が多いから、怖がらせようとしたんです(男子生徒)
・この出来事について新聞に投書を送った。するとツイッターで書き込みがあった。そこには「お前らがいるからトランプに大統領になってほしい」と書かれていた。
トランプ支持者の多くが、心の奥で肌の色が違う人を嫌っています。トランプはそこに火をつけたんだと思います(同上)
・高まる排他的な感情の背景にあるのは押し寄せる不法移民。メキシコとの国境にある幅50m余りの川。不法に国境を越えてくる移民は、年間35万人に上ると見られている。
ここから上がってきた人たちの足跡が残っているわ。子どももいたのね(国境警備員)
・オバマ大統領が4年前、移民に寛容な方針を打ち出して以来、不法移民は自ら進んで警備員に捕まりに来るという。
(どこから来たの?)
「グアテマラ」「エルサルバドル」「ホンジュラス」(不法移民たち)
息子の教育が一番重要なのでここにやって来ました(不法移民の女性)
(ここで勉強したいの?)
はい(少年)
国境を守るのが役目なのに、今やベビーシッターのようです。国境の問題を大統領選挙で正面から取り上げてくれたのは、トランプ氏が初めてでした(全米国境警備協議会のクリス・カブレラ氏)
・アメリカで暮らす不法移民の数は1100万人を超え、人口構成を大きく変えようとしている。建国以来、圧倒的多数を占めていた白人の割合は、この50年で60%余りにまで低下。2055年には白人が50%を下回る一方、中南米出身のヒスパニックの人口が23%に達する見込みだ。
・白人が多数派でなくなる危機感は、これまで移民に寛容だった人たちにまで広がっている。30年近く、アイオワで放送を続けている朝のラジオ番組。トランプ氏が大統領候補になってから、移民に対する不満が次々と寄せられている。
レストランに行くと店員が英語が話せず、注文がめちゃめちゃになっちゃうんだ。アメリカに来ていいのは英語がしゃべれる人だけだ(男性のリスナー)
母が不法移民の車に衝突されて死んでしまったんです。法を破ってアメリカに来た人たちは、きっとまた法を破るでしょう(女性のリスナー)
・このラジオ番組を熱心に聴いてきたヘイヤー夫妻。移民によってアメリカの国の形まで変わってしまうと、危機感を持ち始めている。
何の罪もない人が不法移民に殺されるなんて、気が変になりそうだわ(妻のナンシーさん)
・ヘイヤー夫妻の年収は約800万円。家計をやりくりして3人の子どもを大学まで通わせた。それなのに支払った授業料の5分の1が移民の生徒の支援に使われたと聞き、納得できないと感じている。
母親として我慢できないのは、今や白人の子どもの方が差別されるようになっていることです。不法移民は国の重荷です。私たちアメリカ人から大事なものを奪い取っています(同上)
・トランプ氏の選挙運動に参加するようになったヘイヤーさん、周囲の住民にも支持する人が相次いでいる。
もし大統領選の投票が今日ならトランプに入れますか?(夫のフランクさん)
たぶんトランプだね(住民の男性)
(一番気になる問題は何ですか?)
移民かな(別の住民の男性)
(どうすればいい?)
壁をつくることかな。移民たちは食料も住むところも、携帯電話まで貰っているんだ(同上)
・トランプ氏が開けたパンドラの箱。これまで移民排斥を口にすることをためらっていた人々までもが、声を上げ始めている。
移民を養うために私たちが背負う負担は、この国を破壊しつつあります。トランプはタブーを壊し、ドアを開けてくれたのです(ナンシーさん)
・トランプ氏に触発された移民への反発は、さらに不気味な広がりを見せている。極端な白人至上主義者たちが活動を活発化させている。
・45年前から人種差別を行う団体を監視してきたNGO(南部貧困法律センター)。白人の愛国主義団体の活動は、実は水面下で広がっていたという。
オバマ大統領が就任した直後から白人の愛国主義団体は急激に増え続けています(マーク・ポトック氏)
・この8年で白人の愛国主義団体の数は7倍近くに跳ね上がった。
トランプは極右グループを激しく扇動しています(同上)
・トランプ氏の登場によって人種差別的な事件が相次いでいるという。ボストンではヒスパニックの男性に暴行した男らが逮捕された。トランプ氏が「メキシコ人は犯罪者だ」と演説した直後のことだった。
男たちは「トランプに触発された」と証言しました。トランプは人種差別の“パンドラの箱”を開けました。公の場で差別主義者が大っぴらに語れるようにしてしまったのです(同上)
<分断される超大国アメリカは 世界は>
・8年前にオバマ大統領の就任式が行われた際、アメリカ連邦議会を臨む広大な緑地に100万人を優に超える群衆が詰めかけて「YES WE CAN!私たちはできるんだ」と口々に叫んでいた。
・アメリカが豊かで公正な国として再起するんだという期待がみなぎっていたのを、当時取材に当たった大越キャスターは今も鮮明に覚えているという。
・しかし期待は所詮、期待に過ぎなかったのだと多くの人々が感じているように見える。リーマンショック以降の不況はアメリカ経済を支えてきた中間層を直撃した。
・ものづくりは衰退し、学費のローンにあえぐ若者たちが巷に溢れる中、人々が政治に向ける眼差しは複雑で、しかも懐疑的だ。
・大統領選挙が終わり、年が明けて1月20日には新大統領の就任式が行われる。歓喜の声に包まれて大統領はアメリカの結束を呼びけることだろう。
・しかし長い選挙戦の中で浮き彫りになった深刻な亀裂は、新政権にとっての重い足かせになる可能性を否定できない。しかも溢れ出た怒りのマグマが、その後の社会にどう作用するかも見通せない。
・内なる戦いに疲れた超大国アメリカがどこに向かうのか。世界の視線は当面その一点に注がれることになりそうだ。
・選挙戦の終盤、女性問題が次々と暴露されたトランプ氏、しかし支持は揺らいでいない。移民の増加に苛立ちを感じている前出のヘイヤー夫妻はテレビ討論を観ていた。この日、トランプ氏が強調したのは移民や難民の増加による更なる危機だった。
より多くの移民がやって来る。シリアからも押し寄せるだろう。既に膨大な数を受け入れているのに、クリントンはさらに6.5倍にしようとしている。私はイスラム過激派の流入を止める(演説するトランプ氏)
このままでは大量の移民が押し寄せるでしょう。私たちの国が飲み込まれてしまいます(ナンシーさん)
・そして今、トランプ氏が引き起こした排外主義のうねりは世界をも巻き込もうとしている。トランプ氏の30年来の盟友ジョージ・ロンバルディ氏は、トランプ氏との連携を求めるヨーロッパの極右政党と相次いで接触している。
イタリアでは彼が大統領になってほしいという期待は大きいです。彼の主張はイタリア人の多数派に近いですから。日々5000人近く移民が押し寄せ、もう限界です(イタリア右派政党関係者)
・これまでに接触したのは、EU離脱を主導したイギリス独立党のファラージュ元党首。さらにフランスの極右政党、国民戦線のルペン党首もトランプ氏の思想に共鳴している。
もしトランプが負けてもトランプ現象は続きます。アメリカだけでなく、世界でより大きな潮流となっていくでしょう(ロンバルディ氏)
・世界が固唾をのんで見守るアメリカ大統領選挙。予断を許さない戦いが続いている。異例の選挙戦で噴出した絶望と怒り。アメリカを、そして世界をどこへ導くのか。新たなリーダーの手に委ねられる。
(2016/11/7視聴・2016/11/7記)
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司馬遼太郎思索紀行 この国のかたち 第1集 “島国”ニッポンの叡智
CYBER SHOCK~狙われる日本の機密情報~
史上最悪の感染拡大~エボラ 闘いの記録~
ママたちが非常事態!?~最新科学で迫るニッポンの子育て~
新・映像の世紀・第4集 世界は秘密と嘘に覆われた
シリーズ東日本大震災 原発事故5年 ゼロからの“町再建”~福島 楢葉町の苦闘~
震度7 何が生死を分けたのか~埋もれたデータ 21年目の真実~
シリーズ 激動の世界・第3回 揺れる“超大国”~アメリカはどこへ~
シリーズ 激動の世界・第2回 大国復活の野望~ロシア・プーチンの賭け~
シリーズ 激動の世界・第1回 テロと難民~EU共同体の分断~
新・映像の世紀・第3集 時代は独裁者を求めた
自衛隊はどう変わるのか~安保法施行まで3か月~
未解決事件 追跡プロジェクト~埋もれた情報 動き出した事件~
調査報告 介護危機 急増“無届け介護ハウス”
いのち~瀬戸内寂聴 密着500日~
シリーズ東日本大震災 追跡 原発事故のゴミ
パリ同時テロ事件の衝撃