【アナザーストーリーズ 運命の分岐点】
「アポロ13号の奇跡 緊迫の87時間」
(NHK・BSプレミアム・2016/11/2放送)
※公式サイト:http://www4.nhk.or.jp/anotherstories/
<感想>
アポロ13号の奇跡の生還劇は、私が生まれる数年前の出来事でした。それでも学生時代に公開された映画は劇場で観たのでオチは知っています。久しぶりにこの番組を観て、映画版を観たくなりました。休日に借りに行こうかな…。
映画で印象に残っていたのが空気シェルターを宇宙船内でどう繋ぐかというのを地上で試行錯誤しながら指示を出すというシーン。運悪く?(運よく?)アポロ13号に搭乗できなかったケン・マッティングリー氏を中心に本当にシミュレーションしたのですね。
それにしても彼が「風疹の可能性がある」と診断されたことがこの奇跡の最大の要因だったような気がします。もちろん名もなき多くの人々の努力の賜物であることはありますが、熟知していた現役パイロットが居るのと居ないのでは大きく違ったことでしょう。
ということで、もう一度、映画版を観ることにします。ひょっとしてNHKがこの特集組んだのはそれが狙いなのかな?何処かでリバイバル上映やってたりして(笑)
<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>
・月を目指したその宇宙船は不吉な数字を運命づけられていた。アポロ13号、打ち上げ時刻は13時13分。そして打ち上げから3日目の4月13日。
問題発生のもよう(アポロ13号)
・それは致命的な事故だった。人類が初めて体験した宇宙での大事故。月に到達する寸前、突然爆発。メインエンジンが使えなくなった。動くこともままならず、宇宙空間を漂い始めたアポロ13号。船内には3人の宇宙飛行士。
・だがアポロ13号は絶体絶命の危機から奇跡の生還を果たす。その陰にはNASAのエリートだけでなく、全米各地のエンジニアの知られざる努力があった。救出劇の一部始終を目撃した元宇宙飛行士は、こう断言する。
「あの救出劇はまさに魔法のようでした。映画では伝え切れていません。2~3人が大きな役割を果たしたように映画では見えましたが、実際には何千という人たちの助けがあったからこそ初めて可能だったのです。それが真実です」
・宇宙飛行士が生きて戻るまでの緊迫の87時間。一体何があったのか?
<視点1 フライトディレクター 緊迫の87時間>
・テキサス州ヒューストンに人類の宇宙開発をリードしてきた施設がある。NASAジョンソンスペースセンター、この管制室こそアポロ13号を救うためのギリギリの闘いが行われた場所だ。グリン・ラニーは、あの日この部屋で見た光景をはっきりと覚えている。
大勢の人が何かを喚き、赤い警告灯がたくさん光っていました。何が起きたのか、原因は何なのか全く分からない状況で、とにかく対処に追われました。気づけば勝手に体が動いていて、とにかく夢中でした(ラニー氏)
・誰もがパニックに陥る中、ラニー氏は大胆な救出プランを立てる。その起死回生の作戦とは?
・ラニー氏が宇宙船の飛行を指揮するフライトディレクターになったのは事故の6年前、最年少の27歳だった。頭脳明晰なおかつ冷静沈着。その資質を買われ、あの人類初の月面着陸でもフライトディレクターの一人に抜擢された(1969年7月 アポロ11号月面着陸)。
・以後、アメリカの宇宙開発は成功続き。科学の力で宇宙を開拓できるという空気の中、1970年4月11日にアポロ13号は打ち上げられた。目的地は月面、まだ降りたことのない場所で地面のサンプルを集めることになっていた。
・4月13日、ラニー氏の担当は22時から。でも1時間半以上も前に家を出た。慌てず準備する、いつものことだった。管制室を覗くとフライトは順調だった。勤務に就くまで1時間余り。ラニー氏は管制室を離れ、くつろいでいた。
・しかし21時7分。
(爆発音)
問題発生のもよう(アポロ13号)
もう一度言ってくれ(管制官)
ヒューストン、問題発生だ。主電源Bが電圧低下(アポロ13号)
ちょっと待ってくれ、こちらでも調べてみる(管制官)
・ざわついた様子にすぐさま管制室に向かったラニー氏。
いろんなボタンが赤く点滅していました。何が起きたか分からず、みんな混乱していました(ラニー氏)
・爆発音から13分後。
窓から外を見ると何か吹き出しているようだ。何かガスのようなものだ(アポロ13号)
・その報告の重大さをラニー氏は瞬時に理解した。
起きているのがクルーの生死に関わる事態だということは、はっきり分かりました。恐怖を感じました(ラニー氏)
・アポロ13号は大きく3つの部分に分かれている。月に着陸するため本体から切り離される着陸船、普段の操縦を行う司令船、そしてアポロを動かすエンジンがある支援船。爆発したのはそこにしまわれている酸素タンクの1つだった。エンジンも損傷した可能性があり、その場合点火すれば船体ごと吹き飛んでしまう。
・ラニー氏が担当に就くまであと僅か。一体何を考えていたのか。
私はあと数十分で任務に就きます。それまでクルーをどうやって地球に戻すかの一点に集中しようと頭を切り替えました(同上)
・まだ任務に就いていない自分が一番冷静になれる。ラニー氏が真っ先に考えたのは、とにもかくにもアポロを地球に戻すためのルートだった。このとき管制室では多くのスタッフが直ちにアポロを反転させ、地球に向かわせるべきだと主張していた。
・しかしラニー氏が気にしたのはアポロの位置だった。既に月に接近しており引力を受けている。反転して振り切るほどのパワーがあるかどうか。
皆すごく感情的になっていて「今すぐ反転させろ、地球に帰らせろ!」と、もう分析も何も関係なかった。ですが私が専門のスタッフと冷静に検討してみると、アポロが反転して地球に帰るのは無理だと分かりました。というのも既に月の引力が強くて、それを振り切るのに必要なだけのパワーがアポロ13号にはもう残っていなかったんです(同上)
・だとすれば、どうする。残る可能性は1つしかなかった。予定通り月へ向かい裏側を回る周回ルート。距離は長くなるが月の引力で加速できるため、最小限のパワーで帰ることができる。うまくいく保証はないが、道はこれしかない。
・ラニー氏は主任フライトディレクターのジーン・クランツ氏にその結論を報告。事故から53分後、月周回ルートが採用された。この時の管制室の混乱ぶりを知るNASAシステム主任のアーニー・オルドリッチ氏、不安を拭えなかったという。
重大な問題でしたが、誰もどうしたらいいか分からなかった。月周回ルートは到底不可能だと思ったよ。だって地球に向かうんじゃなく、月の向こうに行くんだからね(オルドリッチ氏)
・その直後、フライトディレクター交代の時間。ラニー氏が指揮を執ることとなった。動力はおろか酸素も電力も失われつつある。文字通り絶体絶命。ラニー氏の最初の指示は、宇宙飛行士を待避させることだった。
・アポロの中で絶対に守らなければならないのは司令船。地球に戻るとき、大気圏で焼けるような温度になっても耐えられるのは、この部分だけ。司令船の電力を温存する必要があった。
・そこでラニー氏が考えたのが、宇宙飛行士たちを月着陸船に避難させることだった。切り離して動くために、電力も酸素も独立したシステムになっているからだ。
クルーを月着陸船に逃がしておく。そして腰を下ろして、この先どうするかを考える。悪くない考えです。次々と問題が起きていたので、進みながら対処しなければならなかったんです(ラニー氏)
・まずは時間を稼いだラニー氏。だが救出に向けた手はここからだ。最大の問題は地球に戻る正しい軌道にアポロをどう乗せるかだった。月を回るとき船体は強い引力を受ける。正しい速度で正しい軌道を進まなければ、地球に到達することはできない。既に爆発によってアポロは本来の軌道から外れてしまっている。どんな軌道をとれば最も早く地球に戻れるのか。
・この難問、意外な人物によって解決されることになる。システムエンジニアのポピー・ノースカット氏、当時26歳。テキサス大学で数学を専攻した彼女は管制室でただ一人の女性スタッフ。コンピューターを使い、正確な軌道を割り出すスペシャリストだった。事故の直後アポロの位置を知ったとき、困難を覚悟したという。
アポロは地球へ戻る軌道から完全に外れていて、あのままなら宇宙空間を漂い続ける運命よ(ノースカット氏)
・ノースカット氏は直ちに計算を開始。最も早く効率的な軌道は何か。刻一刻、軌道から逸れていくアポロ、時間との闘いだった。
間違いなく、あのときはすごいプレッシャーだったわ(同上)
・一方、ラニー氏はアポロを動かすための方法を考え続けていた。エンジンは損傷した可能性があり、点火するのは危険。彼が目を向けたのは月着陸船。メインエンジンに比べれば、はるかに弱く小さいがエンジンがある。これを使えないか。そのエンジンは月に着陸するための降下用。一度使うためだけの設計だった。不安はあるものの、そのエンジンに懸けた。
・事故から約3時間後、ノースカット氏の計算は続いていた。
様々な軌道を想定して、信頼できるかどうか繰り返し検討するの。飛行時間が最短で燃料も最小限に抑えなくてはならなかったわ。とても複雑な方程式をコンピューターで計算するの。とても人間の手で計算できるようなことではないのよ(同上)
・彼女はコンピューターに向き合い続けた。
コンピューターの記録紙の山よ、大量のね。大量の紙から軌道結果を見て誤差が生じた場合、原因をひたすら探るの。それは干し草の山の中から針1本探すような仕事なのよ(同上)
・そして深夜、計算の結果を報告した。
軌道は修正できる。その通りになる自信があったわ。ほんと「出来る」って感じだったの(同上)
・事故から5時間半後、ラニー氏は軌道修正のためエンジン噴射を指示した。月着陸船のエンジンが点火。軌道修正は成功した。
軌道修正がうまくいって、アポロは地球への帰還ルートに乗りました。いい兆候でした(ラニー氏)
・しかし前途は多難だった。この先、アポロを加速させる必要がある。頼みの綱は「アクエリアス」と名付けられた月着陸船。そのエンジンはどれだけもつか、管制室の誰にも分からなかった。
<視点2 エンジニア 知られざるヒーローたちの奮闘>
・月着陸船アクエリアスをつくったメーカーは、ニューヨークに本社があるグラマン社。戦時中、軍用機をつくったあの巨大メーカーが製造を請け負っていた。事故が起きたとき、その製造に関わっていたエンジニアたちは一斉に動き出し対処に奔走した。
あの4日間は非常にエキサイティングだったよ。次々問題が起きるし、3人の宇宙飛行士の命が懸かっていたからね(アクエリアスのエンジン担当だったドン・ハーヴィー氏)
たくさんのエンジニアが自分の専門を生かして懸命に解決に向かって動いたよ(司令船・支援船の品質管理者だったジェラルド・ブラックバーン氏)
あのときの緊張感はとてつもなかったね(アクエリアスのエンジン開発総責任者だったジェラルド・エルヴェラム氏)
本当にできるのか不安はあったよ(アクエリアスの管理責任者だったジェラルド・サンドラ氏)
・このとき動いたエンジニアの数は延べ2万人に上る。
・管制室でラニー氏がアポロの軌道を戻すべく命じたエンジン噴射。実はあのとき噴射時間が重要だった。その裏には確かな裏付けがあった。どれくらい噴射してもいいか、その貴重な情報はカリフォルニアからもたらされた。あのエンジンを開発した総責任者ジェラルド・エルヴェラム氏。
あのときNASAはメインエンジンに点火するのは危険だと考え、アクエリアスに頼りました。賢い決断でしょう。もしメインエンジンを使えば、爆発したでしょうからね。NASAから、すぐにエンジンを噴射したいと言われました。私は即座に「噴射は20秒ほどだったら問題ない。推力は自由に調節してもいい」と答えました(エルヴェラム氏)
・当時アポロ計画に関わっていたエンジニアは膨大。混乱の中、僅か数時間で的確な情報が伝わったのは、奇跡的なことなのだ。なぜそれほど速かったのか、そこにはちょっとした幸運も味方していた。NASAからの連絡より先にメーカーが知ったからだ。きっかけはグラマン社広報官だったディック・ダン氏。夕食に立ち寄ったレストランで偶然、事故を知った。
レストランにテレビ局のスタッフがいたんだ。店の人が彼らの所に行って何か言っているのが目に入ってきた。その瞬間、料理がまだ残っていたのに全員一気に席を立ち出て行ったんだ。そして俺は同僚にこう言ったよ。「何か分からないけど、何かが起きている気がする」ってね(ダン氏)
・彼はすぐにNASAに戻った。
本来はNASAのバックアップさ。でも知っておいてほしいんだが、メーカーの人間としてアクエリアスに関しては俺らの方が詳しいだろ?多分3日間は休憩すらできず、缶詰めだったよ(同上)
・彼は直ちにニューヨークの本社へ連絡。さらに緊急連絡がエンジン開発を担当したカリフォルニアの下請けメーカーへと繋がったのだ。すぐにエンジンの生みの親・エルヴェラム氏に繋がったのが、初動の早さを決定づけた。彼は即座に「20秒の使用なら大丈夫」と太鼓判を押した。8年前からこのエンジンに懸けてきた男。自らNASAに売り込み、開発。アクエリアスのエンジンには特別な思い入れがあった。
月に最初に着陸するエンジンをつくりたかった。歴史に残るチャンスだからね。1日24時間・週7日働いた賜物なんだ(エルヴェラム氏)
・エルヴェラム氏は即座に動き出す。あらゆる事態を想定してデータを洗い出した。さらに右腕であるドン・ハーヴィー氏をヒューストンに送った。エンジン開発の現場で誰よりも苦労してきた男。
ヒューストンまで飛ぶ間、どんな最悪な事態が起こりえるか、ずっと考えていたよ。エンジンの全ての部品を思い浮かべて弱点はどこか、問題が起きるとしたらどこかってね(ハーヴィー氏)
・NASAに到着。そこは厳重な警戒態勢となっていた。
警備員にこう言われたんだ。「中に入ったら、この重大な危機が解決するまで出られないぞ」って。「危機を救えずに誰がここを離れたいと思うかい?」って答えたよ。覚悟を決めたんだ(同上)
・そのころ管制室では一つの課題が持ち上がっていた。地球に向かう速度を上げられないか?電力は残り僅か、このままでは宇宙飛行士の命が危うい。エンジンを噴射して加速したいが、あと何回・最大何秒使ってよいか。責任ある答えを求められたのはハーヴィー氏だった。
問題はエンジンの内側にある断熱シールドだった。何回の燃焼に耐えられるか、それが分からなかった。(同上)
・エンジンを点火するとき、その高熱からエンジンを守る断熱シールド。この耐久性がネックになるとハーヴィー氏は踏んだ。すぐにカリフォルニアのエルヴェラム氏と協力し、実験データを洗い始めた。
・一方、ニューヨークのグラマン本社でも現場の男だちが動いていた。なんとか電力をもたせられないか?ジェラルド・サンドラ氏とマーティ・フィンクルマン氏は、極限まで電力を節約する方法を検討した。
ああいうときは、やっぱり俺たち現場の人間がやるしかなかった(フィンクルマン氏)
すぐに委託業者にデータ集めや、考えられる対策のテストを頼んだ。本当に出来るのか不安はあったよ(サンドラ氏)
・電力の残りは2日分。だが地球までは最低4日かかる。なんとかそこまで電力をもたせたい。しかし…。
NASAに何かを伝えても、業者から言われるのが嫌そうだったよ。だからNASAの上層部に連絡して「彼らの指示に従え」って言ってもらったんだ(フィンクルマン氏)
・彼らは現場の知恵を結集して大胆な節約プランを練り上げた。通信装置以外、殆ど全てをオフ。なんと命綱のナビゲートシステムまでオフにした。
一番の難題はNASAのやつらに、彼らが定めた限界が絶対ではないと説得することだった。俺たちは実験でNASAが知らないデータを持っているが、彼らは規定外のことをしたくなかった。この温度は超えるな、このスイッチは絶対に切るなとマニュアルを聖書扱いしていたんだ。「緊急事態なんだから聖書は捨てろ!」そう説得するのが骨だったね(アクエリアスのシステムエンジニアだったジョン・デヴェイニー氏)
・アポロが月の裏側を抜ける直前、エンジンの限界について結論が見えてきた。ハーヴィー氏がカリフォルニアのエルヴェラム氏とデータを突き合わせた中に、なんと決め手となる情報があったのだ。
断熱シールドはどれだけの燃焼に耐えられるか?その実験データが見つかったんだよ(ハーヴィー氏)
・実験スタッフはNASAが求める以上に長い時間、燃焼したらどうなるか試していたのだ。
その実験のデータによると断熱シールドの限界は、約4分間だと判明したんだ(同上)
・ハーヴィー氏からNASAに結論が報告された。合計4分までなら噴射可能。事故から23時間半後、アクエリアスはエンジンを噴射する。エンジンの生みの親・エルヴェラム氏、不安は尽きなかった。
エンジンが何らかの理由で誤作動する可能性はゼロではありません。あのときの緊張感はとてつもなかった。何もできないので、ただ信じるだけです。「私たちは十分な性能のものをつくった。必ずエンジンは噴射し続ける」とね(エルヴェラム氏)
・噴射は成功、アポロは地球に向けて加速した。フライトディレクターのラニー氏は、技術者たちの活躍についてこう語る。
本当に何度も彼らの助けが必要でした。なぜなら私たちの専門性をはるかに超えた話でも彼らは分かっています。だから全てがうまく機能するんです。私たちは常に彼らに見守られているという感覚を持って動いていました(ラニー氏)
・だがこのとき全く別の問題で、宇宙飛行士の命は風前の灯火となっていた。
<視点3 宇宙飛行士 不運な男が起こした奇跡!>
問題が発生したと聞いたとき「なんだって?」って叫んだんだ。本来だったらエキサイティングなことは何もありません。けれども、その晩はそうなりませんでした。私たち全員の心に最初に浮かんだのは「なんてこった。どうやって戻ってくるんだ?」でした(元宇宙飛行士のケン・マッティングリー氏)
・不運の男・マッティングリー氏。事故から46年目に明かす数奇な物語。実は彼はアポロ13号に乗っているはずだった。もともと海軍のパイロット、NASAへ異動したのは4年前のことだった。以来、アポロ13号の司令船の操縦士として厳しい訓練を続けてきた。しかし打ち上げの2日前、悲劇は起きた。風疹に感染した可能性があるとして突然、交代を命じられたのだ。
アポロ13号のクルーから外されたのは打ち上げの2日前です。気落ちして自分を哀れんでいました(同上)
・あのときのことを思い出すと、胸が苦しくなるという。マッティングリー氏はアポロ13号のフライトを管制室の後ろで見るともなしに見ていた。
これから何をしようかなと思っていました。すると「酒が必要なんじゃない?」と声を掛けられました。「飲みたい気分だ」。彼は「分かった。カバンを取ってくるよ」と言って出て行きました。彼を待つ間、ずっと自分のことを不憫に思っていました(同上)
・しかしそんな矢先、あの事故が起こった。とっさにマッティングリー氏も動き始める。
「なんてこった」というモードを抜け出して「OK、さあどうする?」となりました(同上)
・このとき管制室においてマッティングリー氏にしか出来ない仕事があった。3年間、あらゆるトラブルへの対処を訓練してきた。アポロ13号の特性を知り尽くした彼は、どの方策なら実現可能か正確に判断することができた。
マッティングリーは全てを把握していました。彼はここにいる人たちの大きな支えで、宇宙飛行士にとってもそうでした。彼がそばにいてくれると思うと心強かったです(ラニー氏)
・事故から27時間半後、ヒューストンの管制室では想定外の問題が発生する。船内で二酸化炭素の濃度が上がり、危険な状態だった。アクエリアスは2人用の設計、そこに3人が乗ったために発生した問題だった。アクエリアスには二酸化炭素を一定量吸収できるカートリッジが取り付けられている。それが限界に達したのだ。
・すぐに司令船のカートリッジを持ち込んだ。だが形が違い、アクエリアスの空気清浄機に入らなかった。このままでは窒息の危険がある。そのとき口を開いたのはマッティングリー氏だった。
「ちょっと待った。どうすればいいか知っているぞ」と私は言ったんです。そして「以前、どのシミュレーションかは忘れたけど、二酸化炭素をどう除去すればいいのか訓練をやったことがある。誰か覚えていないか?確かこうだ!宇宙服には穴があってホースがついていて、ファンと繋げることができる。そのホースを使えばいいんじゃないか?やっただろう」とね。みんな、それはいい考えだとなりました。帰還させるためには、私たちが他の目的で練習したシミュレーションが役に立ったんです(マッティングリー氏)
・宇宙船の中にあるものでカートリッジを無理やり繋ぐ。事故から36時間後、完成した。四角いカートリッジ。空気を吸い込む場所を残しビニール袋で密閉。さらに宇宙服についているホースを使って空気清浄機に接続した。すると二酸化炭素の濃度は少しずつ下がっていった。
お互いに補完し合う。1人が何か問題を見つければそれを自分だけに留めておかず、みんなで解決できるように公にします。そうすれば完全に専門が違う誰かにアイデアがあるかもしれません。公式文書の一部にはなかったことも、工場や組立工場で何か知っているかもしれません。取り組んだことがあることかもしれません。情報と情報が繋がる、これは「マジック」です。私が宇宙飛行は「究極のチームスポーツ」だと思う所以です(同上)
・事故から82時間後、難所にさしかかった。アポロが地上に戻るには、分厚い大気圏を通過しなければならない。問題はそこにどんな角度で入るかだ。深い角度で進入すると落下スピードが上がりすぎ、高熱でアポロは船体ごと燃えてしまう。だが角度が浅すぎると大気圏に弾かれてしまう。そうなればもはやアポロは宇宙の彼方に消えるしかない。
・許される角度の幅は僅か2.4度。3人の宇宙飛行士を乗せた司令船は支援船を切り離した。そしてアクエリアスが目標の角度へと導いた。
・事故から86時間後、アクエリアスを切り離す。
アクエリアス、切り離し(アポロ13号)
了解。さようなら、ありがとう(管制官)
・アクエリアスは全ての任務をやり遂げた後、大気圏に落下し燃え尽きたという。
・事故から87時間後、いよいよ大気圏突入。通信が途絶える。そして…12分後、アポロ13号が姿を現した。
聞こえるか?(アポロ13号)
メインモニターで見てるぞ。素晴らしい!管制室は拍手喝采だよ(管制官)
・世界中がその生還を喜んだ。まさに奇跡の生還劇。
素晴らしい気持ちだったわ。だって素晴らしい功績でしょう。計画通りいったミッションより、もっと大きな成果だと思うわ。不幸なミッションだと呼ばれたけど、多くの点において一番運のあるミッションだったのよ。だってあの事故が起こったとき、もしそれが月に着陸した後だったとしたら、帰還のためにアクエリアスのエンジンを使用することができなかったでしょ。本当にラッキーだったわ(ノースカット氏)
アクエリアスをとても誇りに思う。「訓練したことをよくやってくれた」ってね(ハーヴィー氏)
何ていったらいいか、アクエリアスはどこかで燃えてしまいましたが、あんな大変なことをものすごい緊張の中で達成でき、全てが報われた気持ちでした。そしてあのエンジンにはこう言いたいです。「できると信じていたよ」とね。それはもちろんあのエンジンをつくった全てのエンジニアたちに対する感謝の言葉でもあります(エルヴェラム氏)
・人類が初めて体験した宇宙での大事故。アポロ13号の奇跡のリカバリーはこう呼ばれる。
「成功した失敗」
私の頭からあの奇跡が消せないように、ミッションに取り組んでいた他の人たちも頭から消すことはできないでしょう。そして、それぞれ異なる特定の場面が強調されているでしょう。でも最後には全員、自分たちはやり遂げたぞと満足し、その場を後にしました。誰であるかは構いません。いくつかの場面で、どこかの時点で一人一人が重要でした(マッティングリー氏)
・「13」という不吉な数字を背負ったアポロ13号。実は打ち上げ時刻が13時13分だったのは、偶然ではなかった。「科学全盛の時代、古い迷信を恐れる必要はない」と考えた当時の技術者があえてその時間を選んだそうだ。
・いみじくもその傲慢さに警鐘を鳴らすかのように事故に見舞われたアポロ13号。その生還劇を可能にしたのは、名もなき人々のひたむきな努力と情熱だった。その奇跡は今も輝き続けている。
・2年後に打ち上げられたアポロ16号には「不運の男」ケン・マッティングリー氏が乗っていた。さらにスペースシャトルにも乗船し、幾度となく宇宙へ飛んだ。ちなみに風疹は80を過ぎた今も発症していない。
・一方、アクエリアスの電力問題に奔走した現場のエンジニアたちは考え方も変わったという。
プレッシャーがかかっていても同時にいろんなことに対応できると俺は気づいたよ。それはどんな仕事でも、そして人生においても大いに役立った。後に子会社の社長だったとき秘書に「トラブルばかりなのに、どうして冷静でいられるんですか?」って聞かれ、こう答えたよ。「アポロ13号で働いたことがあるからさ」(サンドラ氏)
あれ以来、取るに足らない仕事はないと思うようになったよ。今やっていることがどんな効果をもたすのか分からない。いつミッションで役に立ったり、ひょっとして人の命を救ったりするかもしれないだろう?自分の役割をすごく誇りに思っている(フィンクルマン氏)
頑張ったね(サンドラ氏)
Thank you.(フィンクルマン氏)
・突然の緊急事態を乗り切っ奇跡のオペレーション。我々はそこから何かを学んでいるだろうか。
(2016/11/4視聴・2016/11/4記)
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「アポロ13号の奇跡 緊迫の87時間」
(NHK・BSプレミアム・2016/11/2放送)
※公式サイト:http://www4.nhk.or.jp/anotherstories/
<感想>
アポロ13号の奇跡の生還劇は、私が生まれる数年前の出来事でした。それでも学生時代に公開された映画は劇場で観たのでオチは知っています。久しぶりにこの番組を観て、映画版を観たくなりました。休日に借りに行こうかな…。
映画で印象に残っていたのが空気シェルターを宇宙船内でどう繋ぐかというのを地上で試行錯誤しながら指示を出すというシーン。運悪く?(運よく?)アポロ13号に搭乗できなかったケン・マッティングリー氏を中心に本当にシミュレーションしたのですね。
それにしても彼が「風疹の可能性がある」と診断されたことがこの奇跡の最大の要因だったような気がします。もちろん名もなき多くの人々の努力の賜物であることはありますが、熟知していた現役パイロットが居るのと居ないのでは大きく違ったことでしょう。
ということで、もう一度、映画版を観ることにします。ひょっとしてNHKがこの特集組んだのはそれが狙いなのかな?何処かでリバイバル上映やってたりして(笑)
<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>
・月を目指したその宇宙船は不吉な数字を運命づけられていた。アポロ13号、打ち上げ時刻は13時13分。そして打ち上げから3日目の4月13日。
問題発生のもよう(アポロ13号)
・それは致命的な事故だった。人類が初めて体験した宇宙での大事故。月に到達する寸前、突然爆発。メインエンジンが使えなくなった。動くこともままならず、宇宙空間を漂い始めたアポロ13号。船内には3人の宇宙飛行士。
・だがアポロ13号は絶体絶命の危機から奇跡の生還を果たす。その陰にはNASAのエリートだけでなく、全米各地のエンジニアの知られざる努力があった。救出劇の一部始終を目撃した元宇宙飛行士は、こう断言する。
「あの救出劇はまさに魔法のようでした。映画では伝え切れていません。2~3人が大きな役割を果たしたように映画では見えましたが、実際には何千という人たちの助けがあったからこそ初めて可能だったのです。それが真実です」
・宇宙飛行士が生きて戻るまでの緊迫の87時間。一体何があったのか?
<視点1 フライトディレクター 緊迫の87時間>
・テキサス州ヒューストンに人類の宇宙開発をリードしてきた施設がある。NASAジョンソンスペースセンター、この管制室こそアポロ13号を救うためのギリギリの闘いが行われた場所だ。グリン・ラニーは、あの日この部屋で見た光景をはっきりと覚えている。
大勢の人が何かを喚き、赤い警告灯がたくさん光っていました。何が起きたのか、原因は何なのか全く分からない状況で、とにかく対処に追われました。気づけば勝手に体が動いていて、とにかく夢中でした(ラニー氏)
・誰もがパニックに陥る中、ラニー氏は大胆な救出プランを立てる。その起死回生の作戦とは?
・ラニー氏が宇宙船の飛行を指揮するフライトディレクターになったのは事故の6年前、最年少の27歳だった。頭脳明晰なおかつ冷静沈着。その資質を買われ、あの人類初の月面着陸でもフライトディレクターの一人に抜擢された(1969年7月 アポロ11号月面着陸)。
・以後、アメリカの宇宙開発は成功続き。科学の力で宇宙を開拓できるという空気の中、1970年4月11日にアポロ13号は打ち上げられた。目的地は月面、まだ降りたことのない場所で地面のサンプルを集めることになっていた。
・4月13日、ラニー氏の担当は22時から。でも1時間半以上も前に家を出た。慌てず準備する、いつものことだった。管制室を覗くとフライトは順調だった。勤務に就くまで1時間余り。ラニー氏は管制室を離れ、くつろいでいた。
・しかし21時7分。
(爆発音)
問題発生のもよう(アポロ13号)
もう一度言ってくれ(管制官)
ヒューストン、問題発生だ。主電源Bが電圧低下(アポロ13号)
ちょっと待ってくれ、こちらでも調べてみる(管制官)
・ざわついた様子にすぐさま管制室に向かったラニー氏。
いろんなボタンが赤く点滅していました。何が起きたか分からず、みんな混乱していました(ラニー氏)
・爆発音から13分後。
窓から外を見ると何か吹き出しているようだ。何かガスのようなものだ(アポロ13号)
・その報告の重大さをラニー氏は瞬時に理解した。
起きているのがクルーの生死に関わる事態だということは、はっきり分かりました。恐怖を感じました(ラニー氏)
・アポロ13号は大きく3つの部分に分かれている。月に着陸するため本体から切り離される着陸船、普段の操縦を行う司令船、そしてアポロを動かすエンジンがある支援船。爆発したのはそこにしまわれている酸素タンクの1つだった。エンジンも損傷した可能性があり、その場合点火すれば船体ごと吹き飛んでしまう。
・ラニー氏が担当に就くまであと僅か。一体何を考えていたのか。
私はあと数十分で任務に就きます。それまでクルーをどうやって地球に戻すかの一点に集中しようと頭を切り替えました(同上)
・まだ任務に就いていない自分が一番冷静になれる。ラニー氏が真っ先に考えたのは、とにもかくにもアポロを地球に戻すためのルートだった。このとき管制室では多くのスタッフが直ちにアポロを反転させ、地球に向かわせるべきだと主張していた。
・しかしラニー氏が気にしたのはアポロの位置だった。既に月に接近しており引力を受けている。反転して振り切るほどのパワーがあるかどうか。
皆すごく感情的になっていて「今すぐ反転させろ、地球に帰らせろ!」と、もう分析も何も関係なかった。ですが私が専門のスタッフと冷静に検討してみると、アポロが反転して地球に帰るのは無理だと分かりました。というのも既に月の引力が強くて、それを振り切るのに必要なだけのパワーがアポロ13号にはもう残っていなかったんです(同上)
・だとすれば、どうする。残る可能性は1つしかなかった。予定通り月へ向かい裏側を回る周回ルート。距離は長くなるが月の引力で加速できるため、最小限のパワーで帰ることができる。うまくいく保証はないが、道はこれしかない。
・ラニー氏は主任フライトディレクターのジーン・クランツ氏にその結論を報告。事故から53分後、月周回ルートが採用された。この時の管制室の混乱ぶりを知るNASAシステム主任のアーニー・オルドリッチ氏、不安を拭えなかったという。
重大な問題でしたが、誰もどうしたらいいか分からなかった。月周回ルートは到底不可能だと思ったよ。だって地球に向かうんじゃなく、月の向こうに行くんだからね(オルドリッチ氏)
・その直後、フライトディレクター交代の時間。ラニー氏が指揮を執ることとなった。動力はおろか酸素も電力も失われつつある。文字通り絶体絶命。ラニー氏の最初の指示は、宇宙飛行士を待避させることだった。
・アポロの中で絶対に守らなければならないのは司令船。地球に戻るとき、大気圏で焼けるような温度になっても耐えられるのは、この部分だけ。司令船の電力を温存する必要があった。
・そこでラニー氏が考えたのが、宇宙飛行士たちを月着陸船に避難させることだった。切り離して動くために、電力も酸素も独立したシステムになっているからだ。
クルーを月着陸船に逃がしておく。そして腰を下ろして、この先どうするかを考える。悪くない考えです。次々と問題が起きていたので、進みながら対処しなければならなかったんです(ラニー氏)
・まずは時間を稼いだラニー氏。だが救出に向けた手はここからだ。最大の問題は地球に戻る正しい軌道にアポロをどう乗せるかだった。月を回るとき船体は強い引力を受ける。正しい速度で正しい軌道を進まなければ、地球に到達することはできない。既に爆発によってアポロは本来の軌道から外れてしまっている。どんな軌道をとれば最も早く地球に戻れるのか。
・この難問、意外な人物によって解決されることになる。システムエンジニアのポピー・ノースカット氏、当時26歳。テキサス大学で数学を専攻した彼女は管制室でただ一人の女性スタッフ。コンピューターを使い、正確な軌道を割り出すスペシャリストだった。事故の直後アポロの位置を知ったとき、困難を覚悟したという。
アポロは地球へ戻る軌道から完全に外れていて、あのままなら宇宙空間を漂い続ける運命よ(ノースカット氏)
・ノースカット氏は直ちに計算を開始。最も早く効率的な軌道は何か。刻一刻、軌道から逸れていくアポロ、時間との闘いだった。
間違いなく、あのときはすごいプレッシャーだったわ(同上)
・一方、ラニー氏はアポロを動かすための方法を考え続けていた。エンジンは損傷した可能性があり、点火するのは危険。彼が目を向けたのは月着陸船。メインエンジンに比べれば、はるかに弱く小さいがエンジンがある。これを使えないか。そのエンジンは月に着陸するための降下用。一度使うためだけの設計だった。不安はあるものの、そのエンジンに懸けた。
・事故から約3時間後、ノースカット氏の計算は続いていた。
様々な軌道を想定して、信頼できるかどうか繰り返し検討するの。飛行時間が最短で燃料も最小限に抑えなくてはならなかったわ。とても複雑な方程式をコンピューターで計算するの。とても人間の手で計算できるようなことではないのよ(同上)
・彼女はコンピューターに向き合い続けた。
コンピューターの記録紙の山よ、大量のね。大量の紙から軌道結果を見て誤差が生じた場合、原因をひたすら探るの。それは干し草の山の中から針1本探すような仕事なのよ(同上)
・そして深夜、計算の結果を報告した。
軌道は修正できる。その通りになる自信があったわ。ほんと「出来る」って感じだったの(同上)
・事故から5時間半後、ラニー氏は軌道修正のためエンジン噴射を指示した。月着陸船のエンジンが点火。軌道修正は成功した。
軌道修正がうまくいって、アポロは地球への帰還ルートに乗りました。いい兆候でした(ラニー氏)
・しかし前途は多難だった。この先、アポロを加速させる必要がある。頼みの綱は「アクエリアス」と名付けられた月着陸船。そのエンジンはどれだけもつか、管制室の誰にも分からなかった。
<視点2 エンジニア 知られざるヒーローたちの奮闘>
・月着陸船アクエリアスをつくったメーカーは、ニューヨークに本社があるグラマン社。戦時中、軍用機をつくったあの巨大メーカーが製造を請け負っていた。事故が起きたとき、その製造に関わっていたエンジニアたちは一斉に動き出し対処に奔走した。
あの4日間は非常にエキサイティングだったよ。次々問題が起きるし、3人の宇宙飛行士の命が懸かっていたからね(アクエリアスのエンジン担当だったドン・ハーヴィー氏)
たくさんのエンジニアが自分の専門を生かして懸命に解決に向かって動いたよ(司令船・支援船の品質管理者だったジェラルド・ブラックバーン氏)
あのときの緊張感はとてつもなかったね(アクエリアスのエンジン開発総責任者だったジェラルド・エルヴェラム氏)
本当にできるのか不安はあったよ(アクエリアスの管理責任者だったジェラルド・サンドラ氏)
・このとき動いたエンジニアの数は延べ2万人に上る。
・管制室でラニー氏がアポロの軌道を戻すべく命じたエンジン噴射。実はあのとき噴射時間が重要だった。その裏には確かな裏付けがあった。どれくらい噴射してもいいか、その貴重な情報はカリフォルニアからもたらされた。あのエンジンを開発した総責任者ジェラルド・エルヴェラム氏。
あのときNASAはメインエンジンに点火するのは危険だと考え、アクエリアスに頼りました。賢い決断でしょう。もしメインエンジンを使えば、爆発したでしょうからね。NASAから、すぐにエンジンを噴射したいと言われました。私は即座に「噴射は20秒ほどだったら問題ない。推力は自由に調節してもいい」と答えました(エルヴェラム氏)
・当時アポロ計画に関わっていたエンジニアは膨大。混乱の中、僅か数時間で的確な情報が伝わったのは、奇跡的なことなのだ。なぜそれほど速かったのか、そこにはちょっとした幸運も味方していた。NASAからの連絡より先にメーカーが知ったからだ。きっかけはグラマン社広報官だったディック・ダン氏。夕食に立ち寄ったレストランで偶然、事故を知った。
レストランにテレビ局のスタッフがいたんだ。店の人が彼らの所に行って何か言っているのが目に入ってきた。その瞬間、料理がまだ残っていたのに全員一気に席を立ち出て行ったんだ。そして俺は同僚にこう言ったよ。「何か分からないけど、何かが起きている気がする」ってね(ダン氏)
・彼はすぐにNASAに戻った。
本来はNASAのバックアップさ。でも知っておいてほしいんだが、メーカーの人間としてアクエリアスに関しては俺らの方が詳しいだろ?多分3日間は休憩すらできず、缶詰めだったよ(同上)
・彼は直ちにニューヨークの本社へ連絡。さらに緊急連絡がエンジン開発を担当したカリフォルニアの下請けメーカーへと繋がったのだ。すぐにエンジンの生みの親・エルヴェラム氏に繋がったのが、初動の早さを決定づけた。彼は即座に「20秒の使用なら大丈夫」と太鼓判を押した。8年前からこのエンジンに懸けてきた男。自らNASAに売り込み、開発。アクエリアスのエンジンには特別な思い入れがあった。
月に最初に着陸するエンジンをつくりたかった。歴史に残るチャンスだからね。1日24時間・週7日働いた賜物なんだ(エルヴェラム氏)
・エルヴェラム氏は即座に動き出す。あらゆる事態を想定してデータを洗い出した。さらに右腕であるドン・ハーヴィー氏をヒューストンに送った。エンジン開発の現場で誰よりも苦労してきた男。
ヒューストンまで飛ぶ間、どんな最悪な事態が起こりえるか、ずっと考えていたよ。エンジンの全ての部品を思い浮かべて弱点はどこか、問題が起きるとしたらどこかってね(ハーヴィー氏)
・NASAに到着。そこは厳重な警戒態勢となっていた。
警備員にこう言われたんだ。「中に入ったら、この重大な危機が解決するまで出られないぞ」って。「危機を救えずに誰がここを離れたいと思うかい?」って答えたよ。覚悟を決めたんだ(同上)
・そのころ管制室では一つの課題が持ち上がっていた。地球に向かう速度を上げられないか?電力は残り僅か、このままでは宇宙飛行士の命が危うい。エンジンを噴射して加速したいが、あと何回・最大何秒使ってよいか。責任ある答えを求められたのはハーヴィー氏だった。
問題はエンジンの内側にある断熱シールドだった。何回の燃焼に耐えられるか、それが分からなかった。(同上)
・エンジンを点火するとき、その高熱からエンジンを守る断熱シールド。この耐久性がネックになるとハーヴィー氏は踏んだ。すぐにカリフォルニアのエルヴェラム氏と協力し、実験データを洗い始めた。
・一方、ニューヨークのグラマン本社でも現場の男だちが動いていた。なんとか電力をもたせられないか?ジェラルド・サンドラ氏とマーティ・フィンクルマン氏は、極限まで電力を節約する方法を検討した。
ああいうときは、やっぱり俺たち現場の人間がやるしかなかった(フィンクルマン氏)
すぐに委託業者にデータ集めや、考えられる対策のテストを頼んだ。本当に出来るのか不安はあったよ(サンドラ氏)
・電力の残りは2日分。だが地球までは最低4日かかる。なんとかそこまで電力をもたせたい。しかし…。
NASAに何かを伝えても、業者から言われるのが嫌そうだったよ。だからNASAの上層部に連絡して「彼らの指示に従え」って言ってもらったんだ(フィンクルマン氏)
・彼らは現場の知恵を結集して大胆な節約プランを練り上げた。通信装置以外、殆ど全てをオフ。なんと命綱のナビゲートシステムまでオフにした。
一番の難題はNASAのやつらに、彼らが定めた限界が絶対ではないと説得することだった。俺たちは実験でNASAが知らないデータを持っているが、彼らは規定外のことをしたくなかった。この温度は超えるな、このスイッチは絶対に切るなとマニュアルを聖書扱いしていたんだ。「緊急事態なんだから聖書は捨てろ!」そう説得するのが骨だったね(アクエリアスのシステムエンジニアだったジョン・デヴェイニー氏)
・アポロが月の裏側を抜ける直前、エンジンの限界について結論が見えてきた。ハーヴィー氏がカリフォルニアのエルヴェラム氏とデータを突き合わせた中に、なんと決め手となる情報があったのだ。
断熱シールドはどれだけの燃焼に耐えられるか?その実験データが見つかったんだよ(ハーヴィー氏)
・実験スタッフはNASAが求める以上に長い時間、燃焼したらどうなるか試していたのだ。
その実験のデータによると断熱シールドの限界は、約4分間だと判明したんだ(同上)
・ハーヴィー氏からNASAに結論が報告された。合計4分までなら噴射可能。事故から23時間半後、アクエリアスはエンジンを噴射する。エンジンの生みの親・エルヴェラム氏、不安は尽きなかった。
エンジンが何らかの理由で誤作動する可能性はゼロではありません。あのときの緊張感はとてつもなかった。何もできないので、ただ信じるだけです。「私たちは十分な性能のものをつくった。必ずエンジンは噴射し続ける」とね(エルヴェラム氏)
・噴射は成功、アポロは地球に向けて加速した。フライトディレクターのラニー氏は、技術者たちの活躍についてこう語る。
本当に何度も彼らの助けが必要でした。なぜなら私たちの専門性をはるかに超えた話でも彼らは分かっています。だから全てがうまく機能するんです。私たちは常に彼らに見守られているという感覚を持って動いていました(ラニー氏)
・だがこのとき全く別の問題で、宇宙飛行士の命は風前の灯火となっていた。
<視点3 宇宙飛行士 不運な男が起こした奇跡!>
問題が発生したと聞いたとき「なんだって?」って叫んだんだ。本来だったらエキサイティングなことは何もありません。けれども、その晩はそうなりませんでした。私たち全員の心に最初に浮かんだのは「なんてこった。どうやって戻ってくるんだ?」でした(元宇宙飛行士のケン・マッティングリー氏)
・不運の男・マッティングリー氏。事故から46年目に明かす数奇な物語。実は彼はアポロ13号に乗っているはずだった。もともと海軍のパイロット、NASAへ異動したのは4年前のことだった。以来、アポロ13号の司令船の操縦士として厳しい訓練を続けてきた。しかし打ち上げの2日前、悲劇は起きた。風疹に感染した可能性があるとして突然、交代を命じられたのだ。
アポロ13号のクルーから外されたのは打ち上げの2日前です。気落ちして自分を哀れんでいました(同上)
・あのときのことを思い出すと、胸が苦しくなるという。マッティングリー氏はアポロ13号のフライトを管制室の後ろで見るともなしに見ていた。
これから何をしようかなと思っていました。すると「酒が必要なんじゃない?」と声を掛けられました。「飲みたい気分だ」。彼は「分かった。カバンを取ってくるよ」と言って出て行きました。彼を待つ間、ずっと自分のことを不憫に思っていました(同上)
・しかしそんな矢先、あの事故が起こった。とっさにマッティングリー氏も動き始める。
「なんてこった」というモードを抜け出して「OK、さあどうする?」となりました(同上)
・このとき管制室においてマッティングリー氏にしか出来ない仕事があった。3年間、あらゆるトラブルへの対処を訓練してきた。アポロ13号の特性を知り尽くした彼は、どの方策なら実現可能か正確に判断することができた。
マッティングリーは全てを把握していました。彼はここにいる人たちの大きな支えで、宇宙飛行士にとってもそうでした。彼がそばにいてくれると思うと心強かったです(ラニー氏)
・事故から27時間半後、ヒューストンの管制室では想定外の問題が発生する。船内で二酸化炭素の濃度が上がり、危険な状態だった。アクエリアスは2人用の設計、そこに3人が乗ったために発生した問題だった。アクエリアスには二酸化炭素を一定量吸収できるカートリッジが取り付けられている。それが限界に達したのだ。
・すぐに司令船のカートリッジを持ち込んだ。だが形が違い、アクエリアスの空気清浄機に入らなかった。このままでは窒息の危険がある。そのとき口を開いたのはマッティングリー氏だった。
「ちょっと待った。どうすればいいか知っているぞ」と私は言ったんです。そして「以前、どのシミュレーションかは忘れたけど、二酸化炭素をどう除去すればいいのか訓練をやったことがある。誰か覚えていないか?確かこうだ!宇宙服には穴があってホースがついていて、ファンと繋げることができる。そのホースを使えばいいんじゃないか?やっただろう」とね。みんな、それはいい考えだとなりました。帰還させるためには、私たちが他の目的で練習したシミュレーションが役に立ったんです(マッティングリー氏)
・宇宙船の中にあるものでカートリッジを無理やり繋ぐ。事故から36時間後、完成した。四角いカートリッジ。空気を吸い込む場所を残しビニール袋で密閉。さらに宇宙服についているホースを使って空気清浄機に接続した。すると二酸化炭素の濃度は少しずつ下がっていった。
お互いに補完し合う。1人が何か問題を見つければそれを自分だけに留めておかず、みんなで解決できるように公にします。そうすれば完全に専門が違う誰かにアイデアがあるかもしれません。公式文書の一部にはなかったことも、工場や組立工場で何か知っているかもしれません。取り組んだことがあることかもしれません。情報と情報が繋がる、これは「マジック」です。私が宇宙飛行は「究極のチームスポーツ」だと思う所以です(同上)
・事故から82時間後、難所にさしかかった。アポロが地上に戻るには、分厚い大気圏を通過しなければならない。問題はそこにどんな角度で入るかだ。深い角度で進入すると落下スピードが上がりすぎ、高熱でアポロは船体ごと燃えてしまう。だが角度が浅すぎると大気圏に弾かれてしまう。そうなればもはやアポロは宇宙の彼方に消えるしかない。
・許される角度の幅は僅か2.4度。3人の宇宙飛行士を乗せた司令船は支援船を切り離した。そしてアクエリアスが目標の角度へと導いた。
・事故から86時間後、アクエリアスを切り離す。
アクエリアス、切り離し(アポロ13号)
了解。さようなら、ありがとう(管制官)
・アクエリアスは全ての任務をやり遂げた後、大気圏に落下し燃え尽きたという。
・事故から87時間後、いよいよ大気圏突入。通信が途絶える。そして…12分後、アポロ13号が姿を現した。
聞こえるか?(アポロ13号)
メインモニターで見てるぞ。素晴らしい!管制室は拍手喝采だよ(管制官)
・世界中がその生還を喜んだ。まさに奇跡の生還劇。
素晴らしい気持ちだったわ。だって素晴らしい功績でしょう。計画通りいったミッションより、もっと大きな成果だと思うわ。不幸なミッションだと呼ばれたけど、多くの点において一番運のあるミッションだったのよ。だってあの事故が起こったとき、もしそれが月に着陸した後だったとしたら、帰還のためにアクエリアスのエンジンを使用することができなかったでしょ。本当にラッキーだったわ(ノースカット氏)
アクエリアスをとても誇りに思う。「訓練したことをよくやってくれた」ってね(ハーヴィー氏)
何ていったらいいか、アクエリアスはどこかで燃えてしまいましたが、あんな大変なことをものすごい緊張の中で達成でき、全てが報われた気持ちでした。そしてあのエンジンにはこう言いたいです。「できると信じていたよ」とね。それはもちろんあのエンジンをつくった全てのエンジニアたちに対する感謝の言葉でもあります(エルヴェラム氏)
・人類が初めて体験した宇宙での大事故。アポロ13号の奇跡のリカバリーはこう呼ばれる。
「成功した失敗」
私の頭からあの奇跡が消せないように、ミッションに取り組んでいた他の人たちも頭から消すことはできないでしょう。そして、それぞれ異なる特定の場面が強調されているでしょう。でも最後には全員、自分たちはやり遂げたぞと満足し、その場を後にしました。誰であるかは構いません。いくつかの場面で、どこかの時点で一人一人が重要でした(マッティングリー氏)
・「13」という不吉な数字を背負ったアポロ13号。実は打ち上げ時刻が13時13分だったのは、偶然ではなかった。「科学全盛の時代、古い迷信を恐れる必要はない」と考えた当時の技術者があえてその時間を選んだそうだ。
・いみじくもその傲慢さに警鐘を鳴らすかのように事故に見舞われたアポロ13号。その生還劇を可能にしたのは、名もなき人々のひたむきな努力と情熱だった。その奇跡は今も輝き続けている。
・2年後に打ち上げられたアポロ16号には「不運の男」ケン・マッティングリー氏が乗っていた。さらにスペースシャトルにも乗船し、幾度となく宇宙へ飛んだ。ちなみに風疹は80を過ぎた今も発症していない。
・一方、アクエリアスの電力問題に奔走した現場のエンジニアたちは考え方も変わったという。
プレッシャーがかかっていても同時にいろんなことに対応できると俺は気づいたよ。それはどんな仕事でも、そして人生においても大いに役立った。後に子会社の社長だったとき秘書に「トラブルばかりなのに、どうして冷静でいられるんですか?」って聞かれ、こう答えたよ。「アポロ13号で働いたことがあるからさ」(サンドラ氏)
あれ以来、取るに足らない仕事はないと思うようになったよ。今やっていることがどんな効果をもたすのか分からない。いつミッションで役に立ったり、ひょっとして人の命を救ったりするかもしれないだろう?自分の役割をすごく誇りに思っている(フィンクルマン氏)
頑張ったね(サンドラ氏)
Thank you.(フィンクルマン氏)
・突然の緊急事態を乗り切っ奇跡のオペレーション。我々はそこから何かを学んでいるだろうか。
(2016/11/4視聴・2016/11/4記)
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