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【NNNドキュメント’16】迷走する轍~貸切バス業界の闇~

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【NNNドキュメント’16】
「迷走する轍~貸切バス業界の闇~」

(日本テレビ系列・2016/12/5放送)
※公式サイト:http://www.ntv.co.jp/document/

<感想>

 軽井沢のツアーバス事故についてのドキュメントは、今年4月にNHKスペシャルでも取り上げられました(→【NHKスペシャル】そしてバスは暴走した)。今回はバスを運行する業者と、客を集める旅行会社との関係について深く掘り下げ、問題点を鮮明にしたドキュメントだったと思います。

 前回の感想でも書いたのですが、消費者が安いものに安易に飛びつくことが大変危険だということを痛感しましたね。これは私の実体験ですがインターネットの検索結果でも上位に来るようなバス運行会社でも、都市間の夜行バスでヒヤリとしたことがあります。出発時のシートベルト着用の呼びかけもなく、高速道路を蛇行するような走行で怖い思いをしました。今でも頻繁にバス乗車券の「バーゲンセール」のメールが来ますが、自分の命をバーゲンされてはたまらんと、その会社のバスは利用していません。

 法律で適正運賃(下限運賃)を定めても、法の網の目をくぐるような方法で旅行会社はバス業者への下請代金を不当に引き下げる。そして旅行会社は「料金を上げたら客は逃げる」と言って正当化する。こんな不毛な価格競争を繰り広げている限り、事故へのリスクは絶対に減らないと思います。

 今でも新聞広告や折込チラシを見ると、びっくりするような安価でバスツアーが組まれています。鉄道や飛行機は切符を買った時点で運行事業者がはっきり分かりますが、バスツアーで分かるのは旅行会社の名前だけで、実際に乗車するバスはどんな業者が運行するのかなど全く分かりません。

 やはり旅行会社にも応分の責任負担をさせることで、バス業者に対する安易に買い叩きをさせず、さらに安全運行をきちんとさせるような「緊張関係」をつくることが、不幸な事故を減らす方法になるのではないでしょうか。それによって「安全のコスト」が掛かっても、出し抜けるような安売り業者が居なければ消費者は受け入れますよ。

<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>

※見出しは当方で付けました。

・今年1月、長野県軽井沢。若い命を乗せて1台のバスが暴走した。運転手2人を含む15人が死亡。亡くなった乗客13人は全員大学生だった。
・峠を越えた下り坂、事故現場から250m手前にある監視カメラが異常な走りを捉えていた。制限速度50kmの道を猛スピードで走るバス。

やや右寄りに走っているのかなという印象。後ろでもやばいやばいという声があった(乗客)

あまりにカーブが急だったり、スピードが尋常じゃない感じだった、遠心力とか(乗客)


・車体は大きく右に傾き、センターラインをはみ出している。その先、下りの左カーブを曲がりきれず転落。ガードレールに衝突したときのスピードは時速96kmと判明。制限速度を約50km近く上回っていた。
・大阪に住む田原義則さんと由起子さん、大学2年生だった次男・寛さんを亡くした。母・由起子さんは東京の大学に進学した寛さんと、よくLINEのやりとりをしていた。
・息子の携帯電話。あの日の朝、事故をニュースで知った母親は何度も問い掛けた。その後、繰り返し電話をかけても息子は出なかった。

何でこんな所で、こんな悲惨な事故が起きるのかな。時間戻してやりたいなと思いましたけど(義則さん)

・なぜバス事故は繰り返されるのか、そこには深い闇が存在していた。

<多くのバス業者が「下限割れ運賃」で仕事を請け負っている>
・4年前にも重大事故は起きていた。関越道で高速ツアーバスが防音壁に激突、7人の命が奪われた。ハンドルを握っていたのは、法律で禁止されている日雇い運転手。この運転手の居眠りが事故の原因だった。整備不良や名義貸しなど多くの法令違反も見つかった。
・国は関越道の事故を受け、数々の安全対策を行った。その一つが新運賃制度。バスツアーの多くは旅行会社が客を集め、貸切バス業者に依頼する。このとき運賃にはバス業者が適正な収入を得られるよう、下限額が定められている。新運賃制度ではその下限額を引き上げ、車両整備や乗務員の教育など安全対策の費用を確保できるようにした。
・しかし、安全へのその取り組みは踏みにじられた。軽井沢で事故を起こしたイーエスピーは一昨年の4月、貸切バス事業に参入したばかり。それまでは中古車販売をなりわいにしていた。
・出発前に点呼を行っていなかったなど33件もの法令違反が発覚。死亡した運転手は「大型バスは苦手」と告げていたが1回の研修だけであの日、多くの命を運んでいたのだ。さらにこのバス業者は下限額(26万4449円)を7万も下回る19万円でバスの運行を請け負っていた。
・バス業界は一体どうなっているのか。テレビ信州の取材班は全国に約4500社ある貸切バス業者のうち、1500社にアンケートを実施。回答があった535社のうち、下限割れ運賃での受注があると答えた業者は3分の1を超えた。

「下限割れ料金でないと旅行会社から仕事が受注出来ない」

「安全コストをカットしないと、会社が成り立たない」

「下限割れで受注しないと、仕事がなくなっている」


・中国地方のあるバス業者はこう証言する。

(旅行会社から)よく言われるのは「この料金でやっているから、あんたのところに任せているんだよ」。正規の運賃を出したとき、うちには(仕事が)こないかもわからないですね(バス業者)

<違法逃れのため使われる「手数料」という慣習>
・下限割れの原因の一つが「手数料」という慣習。多くのバス業者は仕事を請け負うたびに、手数料を旅行会社に支払う。アンケートにはこんな一文があった。

「運賃は手数料の設定でどうにでもなる」

・一体どういうことなのか。四国地方のバス業者が取材に応じた。この業者がある旅行会社と交わした契約書。大手の旅行会社は15%、中小でも10%が手数料として運賃に含まれているという。ところが…。

新運賃制度になって15%以上(の手数料)を求めてくる旅行業者はたくさんあります。手数料以外にキックバック・広告手数料・広告宣伝費、いろんな名目で手数料以外の部分を求めてくる(バス業者)

・新運賃制度では下限額を引き上げ、バス業者が安全対策の費用を確保できるようにしたはずだった。しかし一部の旅行会社は手数料を増やしたほか広告宣伝費などを差し引き、バス業者に支払う金額を抑えたのだ。
・取材した中で最も高かった手数料は35%、関東地方のバス業者だ。ある日帰りツアーを下限額を上回る14万4000円で契約したがその後、旅行会社から35%もの手数料を引かれ、実際に受け取ったのは10万1088円だった。実質的な下限割れだ。

「これくらいまではバス代アップしたから、これで勘弁してよ」と(手数料の)パーセンテージで調整されてしまう。(旅行会社は)根本的に正規料金を守ろうという意思がない(バス業者)

・バス8台を所有する別の業者は、運賃の下限割れが経営を圧迫しているという。

手数料を払って下限割れは7割くらい。何が安全かとなると、乗務員の安全教育をやらないといけない。車両の整備もある。設備投資にだいぶお金をかけているので、それ(新運賃制度)が守られていないということは、安全なバスっていうのはこれから先も生まれてこないんじゃないかな(バス業者)

・事故の教訓はどこへ行ってしまったのか?

<価格を上げると商品力が低下するという旅行会社の言い分>
・一方、ツアーを組む旅行会社側は新運賃制度についてこう語る。

事故を起こしたのに何故バス会社だけが儲かって、我々がそのあおりを受けなければならないのか疑問(旅行会社の幹部)

・この旅行会社が企画した新運賃になる前の日帰りバスツアーは、1人当たり5980円。10日間で6500人もが参加する人気のツアーだった。しかし新運賃が適用されバス代が上がると、3000円近く値上げをしなければならなくなった。すると客は4割減少したという。

バス代のアップ分を旅行代金に転嫁することで、旅行商品の商品力が低下してくる。消費者が離れていって当たり前(同上)

<国交省はこの実態をどう考えているのか>
・新運賃制度の導入で浮上した手数料の問題について、国土交通省旅客課の小林伸行調整官(取材当時)はこう語る。

取引の慣行上、許容されうる水準の手数料であれば、その手数料をもって仮に下限を割れたから即悪いかというと、そうとも言い切れない(小林氏)
(過分に取る手数料とは何%?)
それはちょっとですね、なかなか申し上げられない。数値までいくら以上がダメだということは申し上げられない(同上)

・国が民間の取引に介入し、具体的な手数料率を指導することは法律の観点から出来ないという。
・6月、国は旅行会社とバス業者が契約をする際に手数料を書面に残すことや、運賃に関する通報窓口を設置することなどを決めた。

<国の監査を逃れる偽装行為まで行われている>
・しかし業界の闇はさらに深かった。バス業者を取材する中で、国の監査を逃れる偽装行為の事実を知った。

この金額18万3600円。これ税込でのバス代。これが正規料金で、実際には請求して上げている金額は8万5000円(税込)で上げているんですよ(バス業者)

・あるスキーツアーの契約書。運賃は18万3600円、下限額ギリギリだった。しかし実際に旅行会社から振り込まれたのは、下限額を約10万円下回る8万5000円。実は両者合意の下だった。
・相手は大手旅行会社。下限割れでの運行は道路運送法違反で一定期間バスが使用停止となるが、シーズンごとに必ず需要があるスキーツアーを繋ぎ留めるため断らなかったという。

(いきなり監査が入ったらどうする?)
料金なんかのやつは請求書は見ないんですよ監査は。こういうもの(契約書)を見るんですよ。だからこの金額を書いてハンコを押してあれば「この金額で受注しているんですね、おたくは」と。「はいそうです」って言ったら、それで終わりです。それが実態なんですよ(同上)

・さらに中国地方のバス業者はこう証言する。

(もし監査で通帳を見られたら?)
一発(行政処分)ですよね、過去のを見たら。監査は直近の2~3か月しか見ない。すごい量ですから日報だけでも(バス業者)

<悪質事業者を見つけることが困難な実態>
・法令を無視するこのようなバス業者の存在について、バス業界の改善に取り組む全国交通運輸労働組合総連合(交通労連)の鎌田佳伸事務局長はこう語る。

法律の穴を抜けたようなことをやる事業者が存在する。旅行業協会に入っていない旅行業者、バス協会に入っていないバス事業者、これがタッグ組まれると我々としても手の打ちようがない。(国は)徹底的に悪質事業者の監査をして、直らなかったら出て行ってくれと。そうしないと直らないですね(鎌田氏)

・しかし急増したバス業者に対し、国による監査の体制は追いついていない。

監査員366人の体制で12万社を対象としている。正直、偽装しているものは見抜くことは不可能。それがある意味、監査の限界かもしれません。警察権ないですから(国土交通省安全政策課の内山正人安全管理室長)

・監査の対象は12万社。しかし昨年度の監査件数は僅か1万5000件だった。

<軽井沢事故の遺族の思いは>
・軽井沢の事故から4か月、大学生の息子を失った田原さんは再発防止に向け、国に対策を要望した。

今までも同じようなバス事故があって、対策してやっぱり一部不十分で事故が起きてますので、そういうことが本当にないのか微力ながらも確認させていただきたい(田原義則さん)

・遺族が強く要望したのは「監査の実効性を高める」「運転手の技能向上」「運行管理者・旅行会社への罰則強化」など21項目に上る。
・息子は今、海が見える高台に眠っている。遺留品から見つかった1冊の本(「社会を変えるには」小熊英二著)。生前、寛さんは「人の役に立ちたい」と話していたという。本の間に挟まっていたのは、バスの窓ガラスの破片。事故は19歳の真っ直ぐな志を打ち砕いた。

<遺族の思いを反映した法改正が行われた>
・軽井沢の事故から間もなく1年。スキーシーズンを前に、遺族の思いを反映した改正道路運送法が成立した(12月2日)。
・無期限だった貸切バスの事業許可を5年ごとの更新制にし、バス業者の安全対策や経営状況をチェック。安全確保の命令に従わない業者については最大1億円の罰金を科すほか、悪質な業者は即排除する。
・監査の人員不足を補うため、国指定の民間機関が巡回指導する仕組みも盛り込まれた。

<安全はマスト(絶対)項目であり費用削減はウォント(できれば)項目だ>
・帰省のたびに大好きな肉じゃがを頬張る、その横顔を母は忘れることはない。

たまに電話がかかってきたりLINEを送ったりしていたのが、返事がないというのは寂しいですよね。まだ信じられないというか、東京で元気にしているような気もするときもふっとありますし(田原由起子さん)

・あの事故以来、息子の写真を持ち歩いている。

バスに乗って旅行に行くというのは、楽しく旅行に行けるもの。安全に行けるものと思ってバスに乗っているにも関わらずこのような事故があったので、安心安全どんなバスに乗ってもバスに乗って行ってよかったなと帰ってこられるような、そういうバスツアーにしてもらいたいと思います(同上)

・ここにもやりきれない思いを抱えた人がいる。阿部知和さんは長女の真理絵さんを亡くした。希望の会社に就職が決まり、日本の技術を世界に広めたいという夢を持っていた。父親は通夜の席でこう投げ掛けた。

きょうも多くの若者がバスツアーに出かけているでしょう。ぜひ自分の身は自分で守ることを考えてください。

優先順位を間違えないこと。安全はマスト(絶対)項目であり、費用削減はウォント(できれば)項目であることを冷静に考えてほしいと思います。

「ツアーがどんな内容か」「ちゃんとシートベルト締めろよ」とかの声掛けをすべきであったと悔いております。


・またスキーシーズンがやって来る。あの夜、ガードレールの向こうに消えた命。彼らが私たちに遺したものは何なのか。一体何なのか。大きく道を外れた轍が問い掛けている。

(2016/12/7視聴・2016/12/7記)

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