【歴史秘話ヒストリア】
「秀吉 天下人のマネー術」
(NHK総合・2016/9/9放送)
※公式サイト:http://www4.nhk.or.jp/historia/
<感想>
ケンドーコバヤシさん演じる豊臣秀吉。またNHK大阪局の悪ノリかなと思いきや、意外と秀吉役が似合っていて面白かったです。最近では大河ドラマの小日向文世さんの秀吉がお馴染みですが、一度何かのドラマで演じてもらってもいいんじゃないかなと思いましたね。
そして小ネタを幾つか集めた感はありますが、それでも興味深いエピソードばかりで面白かったです。多田銀山の話は初めて聞いたことで、これも原丹波・原淡路親子でドラマをつくれるぐらいの話に思えました。
ということで歴史系教養番組として貴重な番組ですから、ぜひ今後もそれなりのクオリティを宜しくお願いしますよ、NHKさん。次回は石川啄木役・溝端淳平さんと妻の節子役・川島海荷さんの再現ドラマが予定されているとのことで、ちょっと期待してますからね(笑)
<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>
・400年前に造られた黄金の貨幣、大きさは大人の手のひらほどもある。1枚が現在のお金で約100万円。そんな高額の金貨を惜しげもなくばらまいていたのは、天下人・豊臣秀吉。
・秀吉の財産は一説には200兆円、日本の歴史上屈指の大金持ちだったと言われている。
・しかし元々は貧しい農民、巨万の富を築いた裏には何やら怪しげな男たちの陰が…。
・戦場での秀吉の武器は槍や鉄砲ではなくお金だった?。
・また大河ドラマ「真田丸」の舞台、信州・上田城で近年見つかったのが「黄金の瓦」とは?
<秀吉のお金の源は?>
・兵庫県の多田銀山跡。秀吉が持っていた銀山の一つで、この山で採れる銀は秀吉の出世を支えていた。
・その頃、戦いの武器といえば鉄砲、大量の火薬が必要だった。しかし火薬の原料となる硝石は日本では殆ど採れず、中国など外国からの輸入に頼っていた。その支払いに使われたのが、世界で流通していた貴金属である銀。
・銀を手にすることが天下取りへの近道。若き秀吉も銀を求め、戦いを繰り広げた。そして手に入れたのが多田銀山だった。しかし鉱脈の殆どが地中深くにあったため、見つけ出すことが困難だった。
・そこで秀吉が頼りにしたのが、当時「山師」と呼ばれた男たち。全国の鉱山で経験を積み、技術を身につけた金銀採掘のプロフェッショナル。
・しかし山師を束ねるのは容易ではなかった。彼らの多くは一攫千金を狙う野心家。隠れて自分の分を掘ったり、銀を持って逃げ出したりすることもしばしばだった。
・一説に「山師」という言葉に「詐欺師」の意味があるのはこのため。一筋縄では行かない人たちだった。
・それでも銀を掘り出すには、山師に働いてもらわなければならなかった。
山師というのは本当に自由人。自分で鉱脈を見つけて、いくらか領主に差し出す。1割を差し出すけれど9割を自分がもらう。取り分が多いほどモチベーションが上がる。秀吉はかなりいい比率で山師たちに渡すことにしたと思う(九州大学名誉教授・鉱床学の井澤英二さん)
・山師を手なずけた秀吉だったが、銀がどこに埋まっているのか一向に分からなかった。そこで打った次の手は、原丹波、原淡路という山師の親子のスカウト。
山師の中でも特別に優れた能力を持った者だと思う(同上)
・秀吉の期待を一身に背負った原親子は、どうやって鉱脈を探したのか。二人はまず山の麓の石を調べた。鉱脈が地表に出ていて、かけらが落ちている可能性があった。
・とはいえ膨大な数の石から、どうやって銀を含んだものを見分けたのか。酸化によって色が変化したもの、二人は長い経験からここに銀が含まれていると知っていた。
・銀を含む石を見つけると、まっすぐ上に登り山の岩肌を掘り、駄目なら更に登って掘る。地道な作業を何度も何度も繰り返していった。
・そして遂に二人は鉱脈の一部を見つけた。それをきっかけに大きな銀の鉱脈に辿り着いた。二人が掘ったとされる「瓢箪間歩」。この発見を大いに喜んだ秀吉が、自分のトレードマークである瓢箪を与えたことからそう名づけられたという。
・多田銀山で採れる鉱石には銀と銅が混じっているものが多かった。銀は精錬という作業を行うことで鉱石から取り出される。しかし当時は銀と銅を分けることはできなかった。その問題を解決したのも原親子だったと言われている。
・瓢箪間歩のすぐそばで見つかった精錬で出た残りかす、銀を銅から離すのに成功したことを示すものだ。
本当に新技術ですよね。これをうまく使ったというのが大きいと思う(同上)
・その新技術とはどのようなものだったのか。銀と銅にさらに鉛を混ぜることが「ミソ」だった。一緒に炉で熱すると溶けた鉛と銀が混ざった物が流れ出てくる。ここで銅は取り除かれる。銀が銅より鉛にくっつきやすいという性質を利用している。
・これを松葉などを焼いた灰と燃やせば銀だけが浮かび上がってくる。灰が鉛を吸い取ってくれるのだ。これで銀を取り出すことができる。
・この「灰吹き法」で飛躍的に純度の高い銀が手に入るようになった。原丹波・原淡路親子の活躍によって多田銀山はその後、多くの銀をもたらした。
・秀吉は多田銀山以外にも兵庫の生野銀山、新潟の佐渡金山など多くの金山・銀山を支配していた。ある年の記録によると、その収入は金4400枚、銀9万3000枚。現在のお金にすると約140億円。こうした莫大なお金が他の武将たちを圧倒する力の源だった。
<秀吉流 お金の使い方>
・1581年(天正9年)、秀吉がまだ織田信長の家臣だった頃、中国地方を支配していた毛利家との戦いで最前線である鳥取城を攻めることになった。
・守りが固い城をどう落とすか。秀吉は兵糧攻め(城を包囲して補給線を塞ぎ、敵を飢えさせて降伏させる作戦)を考えたが時間が掛かるのが難点で、前年の播磨三木城の戦いで2年近くも掛かった。
・そこで取った策は商人を使って鳥取中の米を買い占めるというものだった。しかも倍の値段を出すということで、みな喜んで米を商人たちに売ったという。
・そして鳥取城に向け出陣。当然、毛利軍は籠城の準備を始めたが、城にあるはずの米が無くなっていた。米が倍の値段で売れるとの噂を聞きつけた兵士たちが城の米まで売ってしまっていたのだ。
・兵糧がないため間もなく鳥取城は落城した。
倍で買っても当然そこでもって戦争の期間は短くなる。結局は経済的にいくと得ということ。目先のことにとらわれず大局を見ていく商売人に通じるような合理さ、それまでの武士とは違った合理的なものだった(三重大学教授・日本史の藤田達生さん)
・他の武将には思いも寄らないお金の使い方を武器に、秀吉は出世街道をまっしぐら。その奇想天外な金遣いは天下人になった後も冴えわたった。
・現在放送中の大河ドラマ「真田丸」。真田家の城だった上田城で近年、不思議な瓦が発見された。一見、普通の瓦だがよく見ると金箔瓦だった。
・これは秀吉が命じて造らせたものだった。徳川家康への無言のメッセージだった。秀吉の命で中部地方にあった広大な領地から一転、関東へ国替えさせられていた。不満を漏らす家臣たちに家康は関東の領地も100万石以上あり、これだけの力があれば秀吉の大坂だろうといつでも攻められると言ったという。
・ところが、家康が目にしたのは金色に光り輝く城の姿、あの「金箔瓦」の城だった。秀吉は上田城以外にも家康の領地を取り囲むように、このような城を幾つも造らせていた。
豊臣に対する反抗心を奪いたい。これだけ豊臣家は経済基盤が豊かなんだ、だから反抗すると損ですよと、いわゆる抑止力として(お金を)使おうとした(日本城郭協会理事の加藤理文さん)
・秀吉が造らせた金箔瓦の城は6か所(駿府、甲府、小諸、松本、上田、沼田)。そこにはもう一つ、大きな意味が隠されていた。当時、家康は秀吉から何かと呼び出され、江戸と京・大坂をしばしば行き来していた。
・通る街道は主に3つ、北の街道を進むと上田、松本、真ん中の街道を進むと甲府、東海道でも駿府、いずれも秀吉の力をまざまざと見せつけられた。
・戦わずして相手を抑える、これぞ秀吉究極のお金の使い方だった。
・秀吉は天下人となったこの頃、様々な金貨・銀貨をざくざく作っている。冒頭で触れた大きな金貨は「天正大判」。1枚で約100万円、家臣たちに褒美として渡していたという。
・また直径2センチほどの小さな金貨「円歩金」は、物の売り買いに使われていたという。
・銀貨の「博多御公用銀」。至る所に文字があるが、何のためかというと必要な量だけ切り取って使っていたという。小さく切り取られても正式なお金だと分かるように文字が打たれたという。
<みんな幸せ!平和な世の錬金術>
・秀吉が天下統一を果たし戦国時代に終止符を打つと、訪れたのは戦のない世の中。すると秀吉、今度は平和な世ならではのやり方でお金を動かしていった。
・時は1595年(文禄4年)、秀吉はあることで頭を悩ませていた。米が大量に余ってしまい、処分に困っていたのだ。
・そんなとき若狭では米が不足しているという話を聞いた秀吉は早速動き、商人に余っていた米を若狭に運んで売らせた。その量は400石(米俵1000俵分)で、運ぶ前は16両だった値段が若狭では58両で売れた。
・秀吉はその後も、全国の米の相場を細かく調べては高値の場所で売った。当たり前のようにも思えるが、世の中が平和になれば物や人が安全・確実に行き来できることに目を付けた。
・天下人・秀吉の錬金術。その総仕上げは、秀吉が威信を懸け巨大な大坂城と城下町の建設を進めていた頃のこと。全国から多くの人夫や職人が集められ、大坂は5万人が暮らす町となった。
・ところが急に人口が増えたことで、それに見合うだけの商人の数が足りないという問題が発生した。
・そこで秀吉が編み出したのは「地子」(場所代)を免除するというもの。その話を聞きつけた商人たちが各地から続々と大坂の町へやって来た。野菜や魚、米など食べ物を扱う商人、人々が身につけるものを売る草履屋、反物屋、さらに大工や屋根葺き職人、材木商など家の建築に関わる者たち、医者や薬屋まで集まってきた。
・人が商売を呼び、商売がさらに多くの人を呼び込む。こうして大坂は人口20万という大都市へと成長していった。大坂有数の繁華街「道頓堀」の名の由来となった商人・安井道頓や、材木商として富を築き今や大阪のビジネス街の中心「中之島」の開発を行った淀屋常安など、後に豪商として名を馳せる人たちも数多く生まれた。
・そんな中、秀吉はしっかりと商人たちから売上の5分の1を税金として受け取っていたのだ。
秀吉の政策のおかげで国全体が活性化した。まさにウインウインの関係で商人たちも潤う、秀吉もそれで潤う。「金は天下の回り持ち」誰もが金によって幸せになる、秀吉の金儲けの凄さと金遣いの良さがいい時代をちゃんとつくった(静岡大学名誉教授・戦国史の小和田哲男さん)
<秀吉が築いた大阪の活気は今も続いている>
・秀吉が築いた大坂の町、現在は人口270万人。大阪の「活気」は、400年前の秀吉の時代から続いている。
・秀吉の頃の町の賑わいを描いたといわれる「豊臣期大坂図屏風」。野菜を買いに来た人、遊んでいる子どもたち、太平の世を謳歌する人々の息遣いが聞こえてくる。
・その中に一際賑やかな一団が描かれている。大坂・住吉大社夏祭りの行列、秀吉はこの祭りをこよなく愛したという。
・その祭りは今年も大阪の人たちの手で受け継がれている。行列には武士や商人に扮した人、神輿を担ぐ町の人々、様々な人が一体となって祭りを盛り上げている。
人々が身分の上下へだてなく皆が栄えていく。その祈りを込めて太閤さんが愛したお祭りがこの住吉祭り。太閤さんは皆さんの幸せを祈って、この世を治めていこうという意思があった(住吉大社権禰宜の小出英詞さん)
・秀吉が残した言葉がある。
民の快楽を得ること また悦しからずや(「秀吉事記」より)
「みんなが豊かになるっちゅうことは、ホンマにうれしいことやなあ!」(ケンドーコバヤシ演じる豊臣秀吉)
(2016/9/10視聴・2016/9/10記)
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「コーフン!古墳のミステリー」
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「熊本城 400年の愛」
「京都で旅する地獄と極楽」
「奈良 ここにシカない奇跡」
「愛と悲しみの大奥物語」
「あしたは動物園に行こう」
「日本でいちばん怖いパパ 信長」
「あなたが選ぶ○○な人~歴史上の人物ベスト5~」
「二・二六事件 奇跡の脱出劇」
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<感想>
ケンドーコバヤシさん演じる豊臣秀吉。またNHK大阪局の悪ノリかなと思いきや、意外と秀吉役が似合っていて面白かったです。最近では大河ドラマの小日向文世さんの秀吉がお馴染みですが、一度何かのドラマで演じてもらってもいいんじゃないかなと思いましたね。
そして小ネタを幾つか集めた感はありますが、それでも興味深いエピソードばかりで面白かったです。多田銀山の話は初めて聞いたことで、これも原丹波・原淡路親子でドラマをつくれるぐらいの話に思えました。
ということで歴史系教養番組として貴重な番組ですから、ぜひ今後もそれなりのクオリティを宜しくお願いしますよ、NHKさん。次回は石川啄木役・溝端淳平さんと妻の節子役・川島海荷さんの再現ドラマが予定されているとのことで、ちょっと期待してますからね(笑)
<視聴メモ・番組内容(いわゆるネタバレ)が含まれています>
・400年前に造られた黄金の貨幣、大きさは大人の手のひらほどもある。1枚が現在のお金で約100万円。そんな高額の金貨を惜しげもなくばらまいていたのは、天下人・豊臣秀吉。
・秀吉の財産は一説には200兆円、日本の歴史上屈指の大金持ちだったと言われている。
・しかし元々は貧しい農民、巨万の富を築いた裏には何やら怪しげな男たちの陰が…。
・戦場での秀吉の武器は槍や鉄砲ではなくお金だった?。
・また大河ドラマ「真田丸」の舞台、信州・上田城で近年見つかったのが「黄金の瓦」とは?
<秀吉のお金の源は?>
・兵庫県の多田銀山跡。秀吉が持っていた銀山の一つで、この山で採れる銀は秀吉の出世を支えていた。
・その頃、戦いの武器といえば鉄砲、大量の火薬が必要だった。しかし火薬の原料となる硝石は日本では殆ど採れず、中国など外国からの輸入に頼っていた。その支払いに使われたのが、世界で流通していた貴金属である銀。
・銀を手にすることが天下取りへの近道。若き秀吉も銀を求め、戦いを繰り広げた。そして手に入れたのが多田銀山だった。しかし鉱脈の殆どが地中深くにあったため、見つけ出すことが困難だった。
・そこで秀吉が頼りにしたのが、当時「山師」と呼ばれた男たち。全国の鉱山で経験を積み、技術を身につけた金銀採掘のプロフェッショナル。
・しかし山師を束ねるのは容易ではなかった。彼らの多くは一攫千金を狙う野心家。隠れて自分の分を掘ったり、銀を持って逃げ出したりすることもしばしばだった。
・一説に「山師」という言葉に「詐欺師」の意味があるのはこのため。一筋縄では行かない人たちだった。
・それでも銀を掘り出すには、山師に働いてもらわなければならなかった。
山師というのは本当に自由人。自分で鉱脈を見つけて、いくらか領主に差し出す。1割を差し出すけれど9割を自分がもらう。取り分が多いほどモチベーションが上がる。秀吉はかなりいい比率で山師たちに渡すことにしたと思う(九州大学名誉教授・鉱床学の井澤英二さん)
・山師を手なずけた秀吉だったが、銀がどこに埋まっているのか一向に分からなかった。そこで打った次の手は、原丹波、原淡路という山師の親子のスカウト。
山師の中でも特別に優れた能力を持った者だと思う(同上)
・秀吉の期待を一身に背負った原親子は、どうやって鉱脈を探したのか。二人はまず山の麓の石を調べた。鉱脈が地表に出ていて、かけらが落ちている可能性があった。
・とはいえ膨大な数の石から、どうやって銀を含んだものを見分けたのか。酸化によって色が変化したもの、二人は長い経験からここに銀が含まれていると知っていた。
・銀を含む石を見つけると、まっすぐ上に登り山の岩肌を掘り、駄目なら更に登って掘る。地道な作業を何度も何度も繰り返していった。
・そして遂に二人は鉱脈の一部を見つけた。それをきっかけに大きな銀の鉱脈に辿り着いた。二人が掘ったとされる「瓢箪間歩」。この発見を大いに喜んだ秀吉が、自分のトレードマークである瓢箪を与えたことからそう名づけられたという。
・多田銀山で採れる鉱石には銀と銅が混じっているものが多かった。銀は精錬という作業を行うことで鉱石から取り出される。しかし当時は銀と銅を分けることはできなかった。その問題を解決したのも原親子だったと言われている。
・瓢箪間歩のすぐそばで見つかった精錬で出た残りかす、銀を銅から離すのに成功したことを示すものだ。
本当に新技術ですよね。これをうまく使ったというのが大きいと思う(同上)
・その新技術とはどのようなものだったのか。銀と銅にさらに鉛を混ぜることが「ミソ」だった。一緒に炉で熱すると溶けた鉛と銀が混ざった物が流れ出てくる。ここで銅は取り除かれる。銀が銅より鉛にくっつきやすいという性質を利用している。
・これを松葉などを焼いた灰と燃やせば銀だけが浮かび上がってくる。灰が鉛を吸い取ってくれるのだ。これで銀を取り出すことができる。
・この「灰吹き法」で飛躍的に純度の高い銀が手に入るようになった。原丹波・原淡路親子の活躍によって多田銀山はその後、多くの銀をもたらした。
・秀吉は多田銀山以外にも兵庫の生野銀山、新潟の佐渡金山など多くの金山・銀山を支配していた。ある年の記録によると、その収入は金4400枚、銀9万3000枚。現在のお金にすると約140億円。こうした莫大なお金が他の武将たちを圧倒する力の源だった。
<秀吉流 お金の使い方>
・1581年(天正9年)、秀吉がまだ織田信長の家臣だった頃、中国地方を支配していた毛利家との戦いで最前線である鳥取城を攻めることになった。
・守りが固い城をどう落とすか。秀吉は兵糧攻め(城を包囲して補給線を塞ぎ、敵を飢えさせて降伏させる作戦)を考えたが時間が掛かるのが難点で、前年の播磨三木城の戦いで2年近くも掛かった。
・そこで取った策は商人を使って鳥取中の米を買い占めるというものだった。しかも倍の値段を出すということで、みな喜んで米を商人たちに売ったという。
・そして鳥取城に向け出陣。当然、毛利軍は籠城の準備を始めたが、城にあるはずの米が無くなっていた。米が倍の値段で売れるとの噂を聞きつけた兵士たちが城の米まで売ってしまっていたのだ。
・兵糧がないため間もなく鳥取城は落城した。
倍で買っても当然そこでもって戦争の期間は短くなる。結局は経済的にいくと得ということ。目先のことにとらわれず大局を見ていく商売人に通じるような合理さ、それまでの武士とは違った合理的なものだった(三重大学教授・日本史の藤田達生さん)
・他の武将には思いも寄らないお金の使い方を武器に、秀吉は出世街道をまっしぐら。その奇想天外な金遣いは天下人になった後も冴えわたった。
・現在放送中の大河ドラマ「真田丸」。真田家の城だった上田城で近年、不思議な瓦が発見された。一見、普通の瓦だがよく見ると金箔瓦だった。
・これは秀吉が命じて造らせたものだった。徳川家康への無言のメッセージだった。秀吉の命で中部地方にあった広大な領地から一転、関東へ国替えさせられていた。不満を漏らす家臣たちに家康は関東の領地も100万石以上あり、これだけの力があれば秀吉の大坂だろうといつでも攻められると言ったという。
・ところが、家康が目にしたのは金色に光り輝く城の姿、あの「金箔瓦」の城だった。秀吉は上田城以外にも家康の領地を取り囲むように、このような城を幾つも造らせていた。
豊臣に対する反抗心を奪いたい。これだけ豊臣家は経済基盤が豊かなんだ、だから反抗すると損ですよと、いわゆる抑止力として(お金を)使おうとした(日本城郭協会理事の加藤理文さん)
・秀吉が造らせた金箔瓦の城は6か所(駿府、甲府、小諸、松本、上田、沼田)。そこにはもう一つ、大きな意味が隠されていた。当時、家康は秀吉から何かと呼び出され、江戸と京・大坂をしばしば行き来していた。
・通る街道は主に3つ、北の街道を進むと上田、松本、真ん中の街道を進むと甲府、東海道でも駿府、いずれも秀吉の力をまざまざと見せつけられた。
・戦わずして相手を抑える、これぞ秀吉究極のお金の使い方だった。
・秀吉は天下人となったこの頃、様々な金貨・銀貨をざくざく作っている。冒頭で触れた大きな金貨は「天正大判」。1枚で約100万円、家臣たちに褒美として渡していたという。
・また直径2センチほどの小さな金貨「円歩金」は、物の売り買いに使われていたという。
・銀貨の「博多御公用銀」。至る所に文字があるが、何のためかというと必要な量だけ切り取って使っていたという。小さく切り取られても正式なお金だと分かるように文字が打たれたという。
<みんな幸せ!平和な世の錬金術>
・秀吉が天下統一を果たし戦国時代に終止符を打つと、訪れたのは戦のない世の中。すると秀吉、今度は平和な世ならではのやり方でお金を動かしていった。
・時は1595年(文禄4年)、秀吉はあることで頭を悩ませていた。米が大量に余ってしまい、処分に困っていたのだ。
・そんなとき若狭では米が不足しているという話を聞いた秀吉は早速動き、商人に余っていた米を若狭に運んで売らせた。その量は400石(米俵1000俵分)で、運ぶ前は16両だった値段が若狭では58両で売れた。
・秀吉はその後も、全国の米の相場を細かく調べては高値の場所で売った。当たり前のようにも思えるが、世の中が平和になれば物や人が安全・確実に行き来できることに目を付けた。
・天下人・秀吉の錬金術。その総仕上げは、秀吉が威信を懸け巨大な大坂城と城下町の建設を進めていた頃のこと。全国から多くの人夫や職人が集められ、大坂は5万人が暮らす町となった。
・ところが急に人口が増えたことで、それに見合うだけの商人の数が足りないという問題が発生した。
・そこで秀吉が編み出したのは「地子」(場所代)を免除するというもの。その話を聞きつけた商人たちが各地から続々と大坂の町へやって来た。野菜や魚、米など食べ物を扱う商人、人々が身につけるものを売る草履屋、反物屋、さらに大工や屋根葺き職人、材木商など家の建築に関わる者たち、医者や薬屋まで集まってきた。
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・そんな中、秀吉はしっかりと商人たちから売上の5分の1を税金として受け取っていたのだ。
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<秀吉が築いた大阪の活気は今も続いている>
・秀吉が築いた大坂の町、現在は人口270万人。大阪の「活気」は、400年前の秀吉の時代から続いている。
・秀吉の頃の町の賑わいを描いたといわれる「豊臣期大坂図屏風」。野菜を買いに来た人、遊んでいる子どもたち、太平の世を謳歌する人々の息遣いが聞こえてくる。
・その中に一際賑やかな一団が描かれている。大坂・住吉大社夏祭りの行列、秀吉はこの祭りをこよなく愛したという。
・その祭りは今年も大阪の人たちの手で受け継がれている。行列には武士や商人に扮した人、神輿を担ぐ町の人々、様々な人が一体となって祭りを盛り上げている。
人々が身分の上下へだてなく皆が栄えていく。その祈りを込めて太閤さんが愛したお祭りがこの住吉祭り。太閤さんは皆さんの幸せを祈って、この世を治めていこうという意思があった(住吉大社権禰宜の小出英詞さん)
・秀吉が残した言葉がある。
民の快楽を得ること また悦しからずや(「秀吉事記」より)
「みんなが豊かになるっちゅうことは、ホンマにうれしいことやなあ!」(ケンドーコバヤシ演じる豊臣秀吉)
(2016/9/10視聴・2016/9/10記)
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※関連ページ
「ザ・ヤング始皇帝 少年が乗り越えた3つの試練」
「1970 熱いぜ!祭りだ!万博だ!」
「女王はいずこに眠る クレオパトラの墓の謎」
「そうだ!天空の城へ行こう」
「コーフン!古墳のミステリー」
「新選組 ボクたちの友情と青春」
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